たく

若武者のたくのレビュー・感想・評価

若武者(2024年製作の映画)
3.8
鬱屈した若者のやり場のなさをミニマムな演出で描いてて、コメディ演出に始まり、今の若者が安易に使う暴力的な言葉が後半に効いてくるのが怖かった。「逃げきれた夢」で閉塞した心を抱える人たちの世代を越えた交流を描いたように思えた二ノ宮隆太郎監督が、「気持ち悪い」に象徴される心の断絶をぶつけてくるような本作に、何とも言えない居心地の悪さが残る。清水尚弥は「死んだ目をした少年」を観てて、本作でも掴みどころのない浮遊感が印象的だった。

無為な日常を過ごす渉に彼の将来性をアドバイスするご近所さんの冒頭のやり取りで、あえて画面の中心を外してくる映像バランスが観客に不安を与える。ここから渉の友人の英治が、無口な渉に正論で人の感情を逆なでる饒舌さで絡んでくるのがまさかのコメディ演出で、この緊張と緩和のギャップにめちゃくちゃ笑った。ここに介護士の光則が加わり、三人が持て余したエネルギーの行き場を探すような展開。固定カメラの引きの映像が、彼らの乾いた心を象徴してるよう。

英治の長髪がタイトルに引っ張られて「落ち武者」に見える。彼が口にする「革命」の行動原理が、歩き煙草のおっさんやゲイを気持ち悪がる一般女性へのウザ絡みとなって空回りし、ついに宿命の相手へのカウンターパンチで束の間の高揚感を得たところで、彼が挑発を繰り返して来た渉の抑圧された暴力性が発露するのが怖い。

今の人が「死ね」「殺す」という言葉を簡単に口にすることを英治が揶揄したり、彼が絡んだ若い女性から「気持ち悪い」と言われ、終盤で渉がカフェのマスターから同じ言葉を言われるのが、人と人との間に立ちはだかる乗り越え難い壁を象徴してるように思えた。自己存在を肯定できない元凶たる父親との決着を付けに行った渉が「首を落とす」と言ったのがフリになり、第四の壁を破る感じのラストで己の首を差し出してからの日本刀のカットにドキッとさせられる。
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