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若武者のnetfilmsのレビュー・感想・評価

若武者(2024年製作の映画)
3.5
 『若武者』というタイトルにも関わらず、ここにはどこにも若武者など出て来ない。未来への希望も持てず、時間と暇を持て余し、ただため息をつくだけの怠惰な人生なんてアイロニーとして笑い飛ばせば良いものを、「世直し」と称する彼らなりの正義感が痛い。基本痛いから入るからどんなに高度でユーモラスな会話でも、単なる自虐にしか聞こえない脚本がそもそも難アリで、二ノ宮隆太郎は我々観客に何を訴えかけたかったのかがさっぱり伝わらない。中上健次の父殺しが真に秀逸だったのは、そのメタ的な幻想の果てに実存を問う辺りで、渉(坂東龍汰)は実際に父親・修二郎(豊原功補)の存在が無理なんだとケチをつけるのだが、それならこんな狭い町などにいないで、別の街へ出て行けば良いだけの話ではないか?しかし父殺しを拗らせた渉も3人の中ではマシなレベルで、英治(高橋里恩)と光則(清水尚弥)の思考と会話レベルのヤバ味が凄い。

 然しながら彼らにはちゃんと良いところもあって、3人とも定職に就いている。しかも職場での働き方は模範的だ。逆にそこがヤバいのかもしれない。スタンダード・サイズで切り取られるルックは103分間ずっと間違え続けているように思う。だが途中からわざと間違いを選択しているように私に見えた。3人が常にフレームの端の方で窮屈そうに見えるのは、彼らの人生がまだ定まっていないからと取ることも出来る。普通に女の子に声を掛ければ良いものを、あのような屈折しまくった奇妙なバグ味で自分の前に立たれたらそりゃ「キモっ」の言葉で片付けられるし、間違った冷笑主義のベクトルを直ちに改めないとこの先はない。中盤に差し掛かったところで、彼ら3人に共通する幼馴染の死が決定的にその後の3人の運命を変えたように描かれるのだが、そんな場所でも素直になれない拗らせ系男子の曝け出せない人生の挫折感が仄かに香る。ニノ宮隆太郎は前作『逃げきれた夢』でも中年の描き方が巧かったが、今作でも木野花、豊原功補、岩松了の出演場面だけは例外的に素晴らしかった。きっとベクトルを変えれば才能は無限だと思う。
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