くりふ

チャムキラのくりふのレビュー・感想・評価

チャムキラ(2024年製作の映画)
4.0
【カリスマ奴隷】

Netflixヒンディー新作。これは力強くわかりやすく、おもしろかった!

80's売れに売れたという“パンジャブのエルヴィス”アマル・シン・チャムキラのことは本作で知ったが、お国柄というか、日本の音楽業界では絶対起き得ないこの凄まじさに驚き、学びました。

例えばジョン・レノンのように、政権が嫌がる活動をしていたワケでもなく、大衆から熱狂的な人気を集めただけで“消されて”しまうとは…たかが歌だよ? いや実際、インドが狂っているのはわかるけれど。

シク教過激派による犯行?とも言われるチャムキラ襲撃事件から、過去へと遡るショッキングな本作の構成は、意図的なものでしょう。

2020年以降、インド国内外でシク分離主義運動が復興し、パンジャブ州の独立を求める過激派の活動に、ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権はピリピリしているとか。

そして昨年、本作の撮影は既に始まっていたが、カナダでシク教活動家が暗殺され、米国での同未遂事件を含め、実際にインド政府が関わっていたことが明らかになってきたようだが…大丈夫かインド?

インド映画で感心するのは、こうした世相からの反映が籠るところで、本作も只の伝記に終わらせていない。

史実としての、本能と戒律についての物語。そこに権力が介入する恐ろしさ…実は、変わらぬ現代について描いていると思う。

日本でもエロい歌の歴史…例えばサザン“マンピーのG★SPOT”などエロエロあるが、どれもカッコつけスカしている。チャムキラのように赤裸々な歌詞がウケるのは、パンジャブにそんな下地があったからでしょうが、端的に想像するに、シク教による戒律への反発からでしょう。…それが無意識にでも。

より戒律が重荷だろう女性が実は、エロい歌を好んできた、という本作の描写が傍証かと。♪あなたこそ私の快楽の道具なのに…と歌われる群舞シーン、チャムキラ本人を描くことより、ずっと響いた。

でもさ、その宗教に本当に力があるのなら、本能は自然と制御できるよう変えられる筈。それは消せないもの。消せたら人ではなくなる。そして封じようとすれば、逆に溢れるものでしょ。…特に現代人では。

シク教ってヒンズー教の改良版かと思ったが、根は同じか、と改めて実感したのでした。

チャムキラは歌の力で、民衆のカリスマへと成り上がる一方、戒律の奴隷であり、民衆の奴隷でもあった…という、人物としての分裂感がとても興味深い。…やっぱり、哀れなのだけれど。

より哀れなのが、音楽のパートナーともなってゆく大切な奥さん。インド映画あるあるで、ヒロインが後半、物語上では単なる添え物に堕ちてしまうが、さらにその先で、あの結末…。

そこは不完全燃焼。女性監督の手で、女性側から大いに主張する版も、ぜひ見てみたいと思いました。

…何にせよ、見る価値あるある!とスナオに言える一本でしたが!

監督の“この映画は、社会が無視することも飲み込むこともできなかった、チャムキラの大胆な歌の熱狂的な人気を追っている”…というコメントが、本作を見事に要約しています。

<2024.4.17記>
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