このレビューはネタバレを含みます
去年の夏に放送された今世紀最高の大傑作、BanG Dream It's MyGO!!!!!が新規エピソードを追加し前後編で映画化された。
本作はその前編であり、1話からなん春までの総集編+本編では尺の都合上省略されたギター要楽奈の新規エピソードで構成されている。
結論として、本作はMyGO!!!!!という最高の作品を映画館で良い音響と大きな画面で観られるだけではなく、全体の1/4ほどを占める新規エピソードによって作品を補強し、彼女たちの話により深みが足された、ファン必見の作品になったと断言できる。
特に、今回の前編における新規エピソードでは、要楽奈という本編では一番謎の多かったキャラクターに焦点が当てられている。
楽奈はMyGO!!!!!のメンバー5人の中だと、一番外様なキャラクターだ。
燈とそよと立希は元CRYCHICで、燈と愛音は同じ学校同じクラス。対して楽奈だけは中学生であり、楽奈が他4人のバンドに参加した経緯も、楽奈が燈を「おもしれー女」だと見初めて半ば強引に乱入したことがキッカケである。
その捉えようのない自由奔放さが彼女のキャラクターで魅力的な部分ではあるのだが、やはりどこか謎めいたキャラクターであることは間違いないだろう。
本作はその謎を解消し、これまで視聴者が想像したり楽奈はそういう"キャラ"だからと見過ごしていた、彼女の本編における行動の動機とその背景を改めて描写してくれた。
祖母でライブハウスSPACEのオーナー詩船も認めるほどの才能を発揮し、SPACEという居場所に入り浸ってギターを弾きまくる幸せな日々を過ごしていた楽奈。しかし、ある時彼女に転機が訪れる。
それが、SPACEの閉店。
SPACEという居場所を失った彼女は、失意に暮れギターへの情熱も冷めてしまう。凜々子に誘われてRiNGという新しいライブハウスでようやくギターを弾き始めるも、彼女のバンドをやるという目標は達成できずに居た。
楽奈は一生の居場所を欲しながらも、祖母には「一生なんて軽々しく言うな」と窘められ、居場所も掴めないまま。
このように、楽奈もまた本編開始時点では"迷子"だったのだ。
MyGO!!!!!というアニメは、心に穴を抱え現実にもがく迷子たちが、迷子である自分たちを認めてそれでも前へ進もうとする話だ。
だからこそ、その集大成である本編10話は大いに感動するのだが、これまでは楽奈がいかに迷子であるかは他の4人と比較してあまり分かっていなかった。
しかし、本作によって楽奈が他の4人と同じ迷子であり、皆で大きな危機を乗り越えて一生の居場所を作り上げた、かけがえのないMyGO!!!!!のメンバーなのだと分かるようになった。
本作中でも言及されていた通り、猫は家につくと言われている。
春の陽だまり、迷い猫。
一度家を失い迷っていた楽奈がようやく見つけた燈たちとのバンドという居場所は、きっと猫にとっての春の陽だまりのような心地よい居場所で。
だからこそ、楽奈は春日影(日影は日陰とは違い陽の光を指す。春日影は春の陽の光のこと)を演奏したのだろう。
本当に素晴らしい映画だった。