義民伝兵衛と蝉時雨

放蕩娘の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

放蕩娘(1981年製作の映画)
4.5
正にエレクトラ・コンプレックスとでも言うかのような、父親に対する娘の愛欲。
臭いものに蓋をするかの如く、少女時代からその感情に蓋して圧し続けた結果、身体だけは大人になった彼女の内面の中で長年等閑にされてきた少女時代の惨めな欲望が陽の目を浴びたくて暴れ狂う。
長いこと虐げられ傷つけられてきた感情は、後々当人に、業火の如く大きな苦悩を齎す。
肉体と精神の混乱。そして内から外を目指して反発するタガの外れた欲望の狂乱。

しかし、苦悩はいっだって芸術へと昇華して浄化する可能性があることを忘れてはならない。
男性を主人公にしたかったという監督の本意が語るように、本作の意志の根幹にあるものはドワイヨン監督自身の父親への憧憬。正しく芸術・創作による情念のカタルシス。

心の奥底に封印していた古の感情の、本作の物語中では”行動による具現化”、 ドワイヨン監督の創作行為の中に垣間見えるのは"芸術による具現化”、それら内部から外部への表現によって浄化される蓄積していた心の老廃物。

名心理学者さながらなドワイヨン監督流の研ぎ澄まされた生々しい繊細な心理描写が本作でも圧巻。父親役の名優ミシェル・ピコリの抱擁力溢れる存在感、そして何と言っても彼岸花さながらに毒々しくも美しい過敏な娘を演じたジェーン・バーキンの名演・怪演。名匠ピエール・ロムが捉える純粋性に満ち溢れた映像美の中を、蝶のように舞い蜂のように刺す詩的な台詞の数々も、重々しく美しくて息を呑む。
これまでも人間心理を生々しく繊細に炙り出していきたドワイヨン監督が産み出したこれまた恐るべき大傑作。