2021年ベアトリス・ポレ監督作品。彼女は脚本家としての活動が有名でルネ・アリオ、ラウル・ルイス、フィリップ・リオレなどの有名監督に脚本を提供してきた。同時に自身も短編やドキュメンタリー作品を監督しており、2012年には『Le jour de la grenouille』で長編劇映画の監督デビューをしている。本作はポレ監督にとって長編2作目である。
本作の冒頭でこの物語が実際の出来事に基づくという字幕が出る。実際の出来事というのは妊娠否認(pregnancy denial)とそれに伴う嬰児殺しのことである。この作品のきっかけはポレ監督が新聞記事で妊娠否認についての記事を読んで興味を持ったことから始まった。2011年に妊娠否認を専門とするフランスの団体AFRDG(Association française pour la reconnaissance du déni de grossesse)に連絡をとり、そこで女性たちと会い話を聞いていった。妊娠否認ではお腹が大きくなったり生理が止まったりという従来の妊娠の症状が現れず、自分で妊娠していると気づかない場合がある。女性は通常妊娠期間に不安や恐怖を和らげ、生まれてくる赤ちゃんに愛情を育むという精神的な準備をするが、その期間をすっ飛ばしていきなり生まれてしまうと、パニックを起こし、赤ちゃんに適切な処置をせず、最悪の場合赤ちゃんは死んでしまうことがある。本作の主人公が2児の母で弁護士なのは、すでに出産経験があり、日々法律と向き合っている人物であってさえショックを受け、理性的な行動を取れないことを強調している。