ウディ・アレンの映画に魅せられて彼を人生の師と仰ぐ30代の女性アリスの恋愛模様を描いた、ソフィー・ルルーシュ監督の長編デビュー作となる恋愛コメディ映画。

自分の部屋にはウディ・アレンのポスターが貼ってあって、何か悩み事があるときにはポスターの前でウディ・アレンに語りかけ、心の中のウディ・アレンが返答してくれるという、筋金入りのウディ・アレン好きである主人公のアリス。そのウディ・アレンのポスターを胸に抱えたアリス（を演じるアリス・タグリオーニ）が写っている本作のポスターもおしゃれ。恋に奥手の彼女は、若い頃に好きになった男性を妹に取られてしまうという経験を持つ。現在は、その男性と妹は夫婦として幸せに暮らしているのに対して、アリスには未だに恋人がいない。そんな彼女に両親はアラームエンジニアの男性ヴィクトルを引き合わせるが、彼女は義弟の知り合いに恋をする。

とにかくウディ・アレンのファンにとっては見ておきたい、ウディ・アレン愛に満ち溢れている作品。ウディ・アレン作品への言及もいくつもあって、例えば、アリスが経営している薬局にはウディ・アレン作品のDVDが常備されていて、常連客には貸出をしていたりする。薬局に強盗に入った男性に、強盗が出てくるウディ・アレン作品のDVDを渡して逃がすなんて印象的な場面もある。そして何と言っても、声だけではなくて、ウディ・アレン自身がちゃんと出演しているのが凄い。ソフィー・ルルーシュ監督自身がウディ・アレンの大ファンで、本作の企画を持って実際に会いに行ったとのこと。そして、この映画はこのシーンのためにあると言っても過言ではないラストシーンは感動もの。長編映画の製作経験のない名もなき監督のために一肌脱ぐウディ・アレンの人柄にも感動。

ただし、ウディ・アレン以外の内容については、納得できない部分がいくつもあるなど、あまり出来が良いとは言えない。例えば、アリスは既婚者であると知りながら義弟の知り合いを好きになるが、それに対する何のエクスキューズもないのはあまりにも不自然。義弟の浮気話も何の前触れもなく突然出てくるし、その結末が意図することもまったくわからない。せっかくウディ・アレン愛、映画愛が詰まった作品なのだから、余計なサブプロットに頼らずに、単純にアリスとヴィンセントのラブコメにすれば良かったのにと思う。アリス・タグリオーニとパトリック・ブリュエルの演技も良いだけに、何とも惜しい気がする。

（カナダ滞在中に Tubi にて鑑賞）