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クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王のEegikのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます


クレヨンしんちゃん劇場版第1作
自分のクレしん映画体験としては4本目(オトナ帝国→戦国大合戦→ヘンダーランド→ハイグレ魔王)

劇場版第1作で、「クレしん映画ってこういうものだよね」というフォーマットのコンセンサスが制作者側にも視聴者側にも当然まだ無い頃に作られたものだからなのかは分からないが、他の劇場版に比べて圧倒的に「非日常」に入るのが遅く、初めの30分以上はしんのすけ及び野原家の日常をただただ描くのが特徴的。(もちろん「日常に忍び寄る非日常」要素は最初からあるんだけど、本当に忍び寄っているに過ぎないのでしんのすけたちはほとんど気にせずに幸福で平凡な毎日を過ごしている。)これが素晴らしかった。

「劇場版である」というだけで(初めてなので)劇場版に必要な特別さは獲得できているがために、あえてTVシリーズとは異なる非日常的なファンタジーを前面に押し出す必要がないということなのか。それとも、ここまでの「平凡な日常」話はTVアニメシリーズでもむしろ描かれておらず、劇場版(の前半)に特有のものなのか。

とにかく、このただただ過ぎ去っていく当たり障りのない毎日の生活、《幸福な時代》ともいうべき、濃密な母-息子関係の描写などに感動せざるを得なかった。家族主義をイデオロギーとしては肯定したくないけれど、こういうみさえとしんのすけの「愛」に溢れているとしか言いようのないコミュニケーションを前にして、どうして否定することができようか。

『ヘンダーランドの大冒険』同様、まだひまわりがいない野原家(ひまわり体操は出てくる)の3人と1匹の牧歌的で楽園的とすら形容したくなる生活描写にこそ本作の真髄がある。みさえとしんのすけの間には、肉体的な触れ合いも、言葉によるからかい合いも満ち満ちている。この母子関係をそのまま肯定するのは、「専業主婦」規範の再生産というイデオロギー的な危うさを孕んでいるために避けたいが、とにかくこのふたりの人間の豊穣なコミュニケーションには、原始的なノスタルジーを刺激されてしまう。

どこまで意識的でどこまでが「素」なのか判然としないが、しんのすけがナイツ塙的に言い間違いを頻発する。そのいちいちにじぶんは笑ってしまうのだが、みさえやひろし、幼稚園の先生たちなどの周りの大人は律儀に「それをいうなら〇〇でしょ」と訂正ツッコミを入れる。子供向けアニメとしてのクレしんの教育性の高さはこういう面にもあるのかと今さら感心すると同時に、やはりこうした些細なやり取りもまた、先に述べた大人と子供の豊穣で理想的な接触の一面であると思う。説教されている時などおかしなコンテクストでしんのすけが発し続ける「いやぁ、それほどでもぉ〜〜」というフレーズを、我が子が幼稚園の先生から「優しい子ですね」と褒められた瞬間にみさえとひろしが即座にハモって発するくだりなど、親バカだねぇと笑えると同時に泣けてもくるのである。

また、4本観たクレしん映画のなかでも、画面・映像の雰囲気もいちばん好みだった。これは明確に、絶妙な古さ(”平成初期感”)が原因だと思う。原恵一監督ではなく本郷みつる監督のトーンということでもあろうが。

非日常へのきっかけが、日常的に観ている大好きなTV特撮ヒーロー番組(の異変)であり、友達のあいだでも大流行しているおまけ付き菓子(チョコビ)であるというのも、子供の自然な想像力の延長というかんじで良い。
「本物」のアクション仮面を見抜く=信じるしんのすけの姿には、当然に幼年期の虚構と現実が未分化だったプリミティブな世界認識が反映されていて、やっぱりノスタルジック。『オトナ帝国の逆襲』が大人(=非-子供)に照準を合わせたシニカルで自嘲的なノスタルジーだったとすれば、本作はもっと直截的に子供らしさを表現している。


敵側のボスが「オカマ」キャラなのもヘンダーランドの大冒険と同じで、こうしたクレしんシリーズに通底するホモフォビアは現代的価値観からは批判せざるを得ない(しかしもう30年前の作品なのか……)が、単に退けるのでもなく、野原しんのすけの「女好き」という設定に内在する異性愛規範およびマッチョイズムの延長として理解するなどの必要があるだろう。また本作に限っては、老若男女がハイグレ星人化されてしまうジェンダー撹乱SF的な要素との関係もまた考察の余地があるだろう。

前半の日常パートが好み過ぎたぶんの反動か、別世界に行ってからの逃走&バトルのシーケンスはかなり眠気を堪えながら観ていた。シロがめちゃ雑に喋れるようになって全然かわいくないのが笑える。また、映画クレしんのラストバトルで「高い塔を登る」というお決まりパターンは1作目から(こんなにも明示的に言及されて)始まっていたんだ……という気付き。
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