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里見八犬伝のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

里見八犬伝(1983年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

舞台は日本、安房国。地域を治めていた里見家の城が妖婦玉梓とその軍勢によって攻め落とされ、城内の人間は皆殺しにされる。唯一生き残った静姫は、霊玉を持った男達から里見家と玉梓の100年に及ぶ因縁を知らされる。玉梓の怨念を打ち砕くため、静姫は霊玉を持つ八犬士を従え、邪悪な玉梓に立ち向かっていく…。

鎌田敏夫の小説「新・里見八犬伝」を映画化した作品。時代劇に洋楽を取り入れるなど、斬新な演出が公開当時は話題となった。
邦画では異色のファンタジー・アクション時代劇で、隆盛を極めた角川映画だから為し得た金字塔だ。
よくぞ大長編の伝奇小説をここまで短く、分かりやすくまとめたものだ、と今でも感心する。

基本のストーリーは黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」と「七人の侍」のミックスで、姫さまを守り戦う八人の犬士という、かなりベタな印象ながら、深作欣二監督のダイナミックな演出とJACによる迫力ある戦いが冴え渡り、圧倒的なエネルギーがある。
また当時売り出し中の若き薬師丸ひろ子、真田広之といったアイドル俳優が無垢な眩しさを放つ。

主演2人の他に千葉真一、志穂美悦子、京本政樹らを配した主役陣営のみならず、夏木マリ、目黒佑樹、萩原流行を配した悪役陣営も負けず劣らずで、妖怪が似合う灰汁の強い豪華キャストにも目を見張る。
こちらは深作監督の「魔界転生」の退廃的な妖艶さを流用している。
血の風呂から上がり若返る夏木マリの妖艶なヌードは、これぞ元祖美魔女といった風格さえ漂う。
子ども心に何かいけないモノを見た気になった感覚が甦えってくる。

話の展開は冒険だけでなく、様々なカタチの悲哀ロマンスを埋め込んだ脚本が秀逸だ。
薬師丸の静姫と真田の親兵衛、京本政樹の犬塚信乃と岡田奈々の浜路、志穂美悦子の犬坂毛野と萩原流行の妖之介の各ペアの悲恋は、本作を単なる子供向けアクション映画とは一線を画し、大人達の記憶にも残る。

アクションではワイヤーアクションを駆使した躍動感溢れる殺陣が香港映画よりも世界に先駆けているし、荒涼とした原野での乗馬カットも胸踊る。
敵陣の大規模な祭壇セットでの怒濤の最終決戦の勢いとの破壊は爽快の一言だ。

今見ると蛇の魔物やミイラ化、本来は石なのに明らかに作り物と判る特撮は古めかしく感じられるが、CGもない時代ゆえ、そこはご愛嬌。

難点と言えば、真田と薬師丸の突然の濡れ場だろうか?
決戦を前にして、姫とお供が結ばれるのは少々無理がある。
しかも、これが意外と艶かしく長く感じるので、見ていて気恥ずかしい。
当時、劇場で見た両人のファンは、さぞかし心の中で悲鳴を上げただろう。

とはいえ、日本的な題材でとことん面白い邦画を作ろうとした製作陣の圧倒的な熱量は凄い。
ハリウッド映画をはじめ、後の多くの映画に影響を与えた角川映画の邦画への貢献には、素直に拍手を送りたくなる。
エンタメ精神に溢れる邦画の傑作だ。
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