さっ

花ちりぬのさっのレビュー・感想・評価

花ちりぬ(1938年製作の映画)
5.0
尋常ではない。女性の名前しかない配役クレジット(背景は金魚鉢)がまず圧巻。客も新撰組も、男たちの姿が画面から消去され、舞台となる茶屋=遊廓が外部への視界を持たない(ただ一ヵ所を除いて)のは、女を排除してきた歴史(ここでは幕末の動乱)を文字通り裏返して顧みる映画だからなのだろう。

座敷、丁場、廊下、階段にたむろする芸妓たちの姿が、さながら従業員だけのグランドホテル形式で継起していく(同時多発的ガールズトークの素晴らしさ。とくに手花火でじゃれあう二人!)。そして各地点をしだいに一つの建築空間へと吸収し融合させるのは声と物音だ(隣室の声に聞き耳を立てる/外の騒音が建物全体に響き渡る)。

ラストシーンでは、砲声と半鐘が轟くなか、主人公の花井蘭子は建物のてっぺんの物干し台(茶屋の中で唯一、外部を見晴らせる場所)から、遠く広がっていく戦火を茫然と眺めることしかできない。連行された母は未だ帰ってこず、自分の身もどうなるかわからない。彼女の不安に押し潰されそうな後ろ姿で映画は終わる。1938年という製作年から考えてもいろいろな意味で恐ろしい批評性で、この最後は女性たちの救難信号そのものだろう
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