ベンジャミンサムナー

出発のベンジャミンサムナーのレビュー・感想・評価

出発(1967年製作の映画)
3.5
 本作の面白い点は、スコリモフスキ監督がキャストや撮影クルーと言葉での意思疎通ができないので、身振り手振りで演技や演出を指導しながら撮られた作品であること。(それぞれ国籍が違うので共通の言語で話せない)
 なので、本作の演出や主人公演じるジャン=ピエール・レオの演技などから感覚的に撮られた作品なのが覗える。

 ヒロインのトレンチコート、ソーセージの屋台、主人公を誘惑する熟女など、同じスコリモフスキ監督の傑作『早春』に繋がっていくモチーフがこの作品の時点で見受けられる。
 (冒頭でスクーターのエンジンがかからないから自らの足で走っていく場面や、ヒロインと出会って車内で話してるところをガソリンスタンドのメーター越しにとらえたショットは『卒業』を想起させる)

 そして、『早春』と同じくリビドーで無軌道に突き進んでいく主人公を追ってく話だが、本作はすんでのところで破滅への道を回避する。
 それは、『早春』が滴る血のクローズアップで始まったように、主人公が路面電車の前に横たわるがその手前で横に逸れて行く場面で結末を暗示してるかのよう。

 展示車の運転席でオッサンが失神してる(もしくは死んでる?)描写も、主人公がレースに出ればその先に破滅が待ってることを予言する場面なのだろうか。

 もう一つ『早春』と違うのは、ヒロインもかつて主人公と同じような経験をしたという点。
 宿に泊まり、それぞれベッドと地べたで寝ようとするが、お互いに相手の寝顔を見ようとそ~っと覗き込んだら目があってテンパる場面が可愛らしい。

 全編クシシュトフ・コメダ氏のジャズで彩られ、台詞だけでなくSEまでもほとんど廃されているが、主人公がレースに出るのを諦めた時に初めて車のエンジン音が大きく鳴り響くラストも秀逸。