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出発のSNのレビュー・感想・評価

出発(1967年製作の映画)
4.6
故ミシェル・ルグランの姉クリスチアーヌの哀愁漂う歌にのせて、「大人は判ってくれない」のアントワーヌへのオマージュからこの作品は始まる。主人公のマルクは、美容師見習いをしながら、レーサーになることを夢見ていた。そんな彼は、車を持っていないのにもかかわらず、ラリーへの事前登録を済ましてしまう。2日後の本番までに何とかして車を手に入れようとする主人公。ミシェールという娘を連れた青春のメロドラマが始まる。

「これは深刻な主題をめぐる、深刻でない映画だ」というスコリモフスキ自身の言葉がこの映画をいみじくも要約する。たしかに、乗り物を手配するという同一のテーマを扱いながらも、「自転車泥棒」的な凝ったイデオロギーを感じることはない。主人公は、生活のために過ちを犯すのではなく、過ちのために生活を切り崩しているからだ。反動、あるいは拒否、そういった刹那によって支配されたこの映画は、青臭くも瑞々しい魅力であふれている。ただ、そんな生活にもいつかは終わりが来ることを、映画の端々が伝えている。最後のホテルで「過ぎる…青春はすぎる」とおばあさんが呟き、そこで二人はミシェールの写真が燃えるのを見つめる。「出発」とはラリーの始まりなのか、それとも青春の終わりなのか。
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