ねぎおSTOPWAR

スリ(掏摸)のねぎおSTOPWARのレビュー・感想・評価

スリ(掏摸)(1959年製作の映画)
4.2
ブレッソン!ついに「スリ」全編観ました。
映画史としてまとまったものにブレッソンの「スリ」は出てくるので断片を観ていましたが、なるほどこういう作りだったのかと。
話の仕組みとしては「万引き家族」?あれも万引きを推奨しているわけでも非合法を礼賛しているわけではないことは、普通に観れば明らかです。こちらもスリのカッコよさを映像化しているわけでも、「みんなスリって楽しいぜ!」なんて勧めてもいない。どちらも貧しさなりうまくいかない中で犯罪に手を染めていく人間の弱さがそこにある映画。

ロベール・ブレッソン監督は変わった映画監督ですね。(まー映画監督なんてみんな大なり小なり変人でしょうが・・)
役者の演技、感情の表現を嫌い、素人ばかり使った人。結果、観客の思考を合わせてようやく成立するわけです。ただ「何を見せてくれるんだろう?」と待っているとなんのこっちゃ、「はぁ??」となること間違いなし。
映画史においてはアンチドラマチックであり、ごく普通のなんら特徴を備えていない人物を扱ったものの走り映画として扱われています。ある種アメリカンニューシネマにも通ずる話ですね。<アンチ>って歴史の一つですから。
(ブレッソンについては、特にアンチ・・ってことを公言、あるいは意識していたかは把握していません。あくまで振り返ってみるとという話)

さて「スリ」はドストエフスキーの原作と言われています。
もともとは気弱な男がスリの味を占め、さらに技術を教えられ罪を重ね、警察にも生意気な犯罪肯定理論をぶつけ、逮捕される話。概ねこの主題が「罪と罰」のラスコーリニコフを元にしているという。
いやあ「罪と罰」って生涯二度読みました。高校生のときと大学生のとき。なっっがいし読むの大変でした。我ながらよくぞ読んだと褒めてあげたい!いまはもうwebの概略で十分です、はい。

では、映画としてどうかと。
本当に泣いたり笑ったりがないんですよね。そして注目は、緊迫感あふれるスリの場面。まあ当然と言えば当然なのですが、不自然に下手なんです!電車内での近づき方とか!!「おい、つかまるぞ!」って。
でもその手口が徐々に華麗になっていくんです。連係プレーも登場します。そこでブレッソンと撮影監督の技に驚嘆するわけですよ!
「スリの手口を映像で表現してごらん!」
と言われても、かなり困ると思うんです。見せたいのは本来見えないほどに巧妙なものだし、本人が気づいちゃいけないもの。その手さばきは本来スーツなどで隠れた場所にあり指先という狭い範囲。
ブレッソンは局部のアップを(観客を行方不明にすることなく)巧みに撮影、編集し、スピード感を持って表現しています。アップが続くシーンって「何、これどこ?」みたいにもなりがち。いや、お見事です。
76分の作品ですし、良かったら是非!