Omizu

マネーボールのOmizuのレビュー・感想・評価

マネーボール(2011年製作の映画)
4.2
【第84回アカデミー賞 作品賞他全6部門ノミネート】
ブラッド・ピットが実在のアスレチックスGMビリー・ビーンに扮した野球伝記ドラマ。実話ものを得意とする『カポーティ』『フォックスキャッチャー』のベネット・ミラーが監督、『シカゴ7裁判』のアーロン・ソーキンが脚本をつとめた。

素晴らしい。スポーツものとは思えない静かなトーンながらも、野球に全く関心のない僕でも目頭が熱くなる作品だった。

『フォックスキャッチャー』では確かに得体の知れないものは感じたがイマイチ乗り切れなかった。しかし本作はベネット・ミラー独特の狂気と、スポーツものの素直な感動が上手いバランスで演出されている。

ビリー・ビーンが採用した理論は机上の空論とされていた当時、本気でそれを信じ大きな成果をあげたというその事実自体アツい。

ビリー・ビーンという人の一言では表せない複雑な内面を非常に上手くみせていた。野球は好きだが、元選手であった故に斜めからみてしまう。オーナーや監督と対立しつつもリーグ優勝だけを目指す姿は感動というより狂気的。

他の人がやったらひたすら冷徹な人にみえたであろうこの役をブラッド・ピットが人間的に演じたことが大きい。ブラピは確かな演技力があることをこの作品を持って証明した。ただ、結局オスカーをとったのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』というブラピ本来のセクシーさを120%出した作品だったというのが皮肉。でもやっぱりそれもこの映画のように本来のブラピを消した役があったからこそとも言えるだろう。

相方となるアナリストを演じたジョナ・ヒルも素晴らしい。いつものジョナ・ヒルなんだけど、ブラピに振り回されつつもなんとなく同化していく様子がみていて楽しい。後半の電話交渉のシーンなんか最高。

『フォックスキャッチャー』と共通してベネット・ミラーが描いているのは、大きな権力に呑み込まれ狂気に陥っていく人だと思う。本作ではビリーは大学かプロ入りかというところで野球界という大きな権力に呑み込まれ、狂気的に理論を用いて優勝を目指す。方法を問わないその姿勢にはやはり狂気を感じる。

ラストは単純にいい話のように思わせられかけるが、その後の字幕が残酷。やはりただのいい話にならないのがベネット・ミラー。

野球について全く知らないし、日本のプロ野球ですら見たことがない僕でも記録達成のシーンには目頭が熱くなった。作家性と娯楽性が奇妙なバランスで釣り合いのとれた傑作。

追記
娘の歌が素晴らしい。あの歌声は本人のものだとしたら、歌手としても十分やっていけるくらいいい声だった。
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