うべどうろ

秋立ちぬのうべどうろのレビュー・感想・評価

秋立ちぬ(1960年製作の映画)
3.6
泡沫である。ここに描かれた、少年少女のジュブナイル的な陰陽も、二人を取り巻く大人たちの喜憂に富んだ生活も、どれもが「恋」のような泡沫であって、それこそ有為の奥山なのではないか。そう感じてしまうような、脆く掬い上げられるべき光彩陸離たる感情の表象が、この作品に、モノクロの本作に色彩を煌かせていた。

確かに演出は単調でベタ、とりわけ心をうつショットがあるわけでもなければ、音楽と映像の調和も同年代の巨匠たちに比べると人後におちる。しかし、成瀬巳喜男には、成瀬にしかない誠実さがあるのだとわかる。それは、決して自分という存在に思い上がらない、観客への、被写体への、そして描かれる人生への誠実さ。その温容な眼差しは、下積み時代が長く、監督になってからも冷遇されることの多かった成瀬ならではの優しさではないか。その優しさこそが、時に「キンタマがない」などと批判されることはあったとしても、成瀬を一時代を築く名監督へと屹立させて、作品にふき流れる青嵐のような爽やかさを下支えしているのだと、確信する。
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