ぶてぃ

お引越しのぶてぃのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
5.0
情動がまるごと詰め込まれたようないきいきとしたショットの連なりにただひたすら感動。冒頭の食事シーンの長回しからずっと涙が止まらなかった。
語らずとも語らせてしまう演出の凄み。建物や構造物を使って引かれる境界。カットを割らずワンショットのなかで高低差や人物の配置により関係性の変化を描く。役者たちの演技も凄まじく、とくに田畑智子の力強い存在感が素晴らしい。
大人の社会とこどもたちの世界の対比も良くて、小学校のシーンはどれも大好きなのだが、アルコールランプ、唐突なビンタの応酬などは最高だった。

大人の世界のもどかしさにはじめは抵抗しようとするレンコだが、ある時点を境に映画は突如飛躍をする。幻想的で時間の感覚が引き延ばされてしまったかのような不思議な世界へと導かれていく。レンコの視点でみていた世界は急に手の届かないところへ彷徨いだす。それは目に見えない大きなものの存在。
おめでとうございまーす!と彼女が叫ぶめいいっぱいの祝福をスクリーンを通してこちらも受け取らなければならない。

メイキング動画を少し見たが、あの湖の場面以外、絵コンテはないと話すナレーションに驚愕。恐るべし相米組。