肥満児フィン

お引越しの肥満児フィンのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
4.4
家庭を失うこと、それを如何に表すか。相米慎二が生み出した後にも先にもない異質な一本。

小学6年生のレンコ(田畑智子)から見た夫婦と恋人、或いは出会いと決別が全編を通して彼女の成長譚へと繋がっていく訳だが、前半からの後半への作風の変化が凄まじい。
離婚家庭をテーマに描いた邦画は近代では珍しく無いが、今作の場合はもう色々と突出している。
例えば先述した通り、作風の変化。前半はかなりコミカルで、淡々と話が進むと思ったら、後半から一気に流れが変わり、説明を一切省略した意味深なシーンの数々と、静けさ、そしてあのラストシーン。
さっきまで何気なく観ていた作品が、いつの間にか抽象的な芸術映画へと変貌する。
また、走ったり、唐突に殴ったり突き飛ばしたり、逆立ちしたり、石を投げたり、これらの動きが全てキャラクターへの感情移入に繋がり、自然と涙が出そうになる。感情の揺らぎを体現させる事で、人間の本能的な面も表現する。やはりこの映画は深い。
初めて相米慎二の作品を観たが、もっと評価されるべき。若くして亡くなったのが惜しい。