ブラックユーモアホフマン

お引越しのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

お引越し(1993年製作の映画)
4.7
やっぱすごいな相米慎二。

冷静に考えて、映画って大人が作るもんじゃないですか。それでこんなに子供の気持ちに寄り添えるってなかなか簡単なことじゃないと思うんですよ。

もちろん原作があって、奥寺さんの脚本もあってのことだと思いますが。

彼女と育った環境は全然違うけれども、あの幸せだった子供時代には二度と戻れないんだなって感覚はすごく分かる。まあそういう意味では大人が作った話だな、とも思うけども。

すごく分かるし、改めて突き付けられた気がした。辛い。悲しい。切ない。誰か大人も楽しいよって言って欲しい。

ある意味、エンドロールがそうだったかもしれない。「おめでとうございます!」の言葉と裏腹に全然おめでたそうじゃないんだけど、でも最後のエンドロールの田畑智子は悲しそうじゃない。楽しそうにも見える。それならまあ、少し心が救われる。

どんな話なのか全然知らずに観たけど、まさか最後あんなとこまでいってしまうとは。まさに先日観た『ひらいて』にはなかった感覚というか。『台風クラブ』など他の作品でも見た、相米慎二のイっちゃってる感じ。

でもそれでいてあのお祭りのシーンとか、最後の琵琶湖のシーンとか、なぜか不思議と懐かしさも感じる。自分も幼少期に同じ経験をしたかのような気持ちになる。不思議。全員の心の奥のノスタルジィに触れるんだろうか。

相米と言えばな代名詞、長回しは本作もバチバチに決まってるけど、相米の場合、長回しはただ単にトリッキーなことやってんなー面白れーすげーにとどまらず、ちゃんと映画にマジックを生み出す効果をもたらしている気がする。もっと考えがいがあるし、先行研究が腐るほどある話だとは思うが。

【一番好きなシーン】
両親が離婚している東京から転校してきたっぽい女の子(橘=サリーちゃん/遠野なぎこだったんだな)と買い物帰り、自転車を押す坂道。急にどしゃ降り。ヤバい。