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星を追う子どもの雑記猫のレビュー・感想・評価

星を追う子ども(2011年製作の映画)
3.0
 ちょっと野暮ったいキャラデザに、質感のしっかりした食事描写、宗教的な要素の強い風俗描写のあるファンタジーと、とにかく全編「むちゃくちゃジブリだ……」というのが第一印象なのだが、それはさておき。かなり設定の込み入ったファンタジーにも関わらず、最後までストーリーがごちゃつかず分かりやすくまとまっているのは評価したいところ。舞台となる地下世界・アガルタ周りの設定こそ複雑だが、物語自体は地上世界からアガルタの最深部・生死の門までの一本道の旅に終止しており、主人公たちの行動原理も生死の門で死者を蘇らせることと明瞭だ。とにかく次から次へとイベントが続く作品で、緩急の”緩”がないため、一つ一つの展開を味わう暇がないのが気になるが、その分、話がサクサク進むので観やすくもある。結末も神話的で簡潔であり納得感のあるものとなっている。このように、本作は全体的にそつのない観やすいファンタジーとなっているのだが、裏を返すと、オーソドックスすぎてこの作品独自の味がないとも言える。


 個人的に一番の問題点は主人公の明日菜の行動原理が見えないところ。彼女以外の主要人物である森崎の行動原理は亡妻を生き返らせるという非常に明確なものであるし、もう一人の主要人物・シンも使命に従い明日菜と森崎に立ちはだかるも、情にほだされて二人を助けてしまうという分かりやすいキャラクターになっている。これに対し、明日菜は他の男性キャラクターにひたすら付いていくことに徹するキャラクターになっており、なぜ、そこまでして付いていくのかのモチベーションがもう一歩ピンと来ない。その割に異常にテキパキと高いサバイバルスキルを発揮するので、独特なキャラにはなっているのだが……。終盤になって明日菜は、自身の行動原理が寂しさを埋めるためであったことに気付くのだが、それ以降も彼女の心情が物語の中心に据えられることがないのが非常にもったいない。ここに新海監督らしい思春期のウジウジドロドロを注ぎ込めていれば、かなりアクの強い作品になれたのではないかと思うのだが……。
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