らんら

乱のらんらのレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
4.8
凄かった……
私が時代劇を殆ど観たことのない世代なのもあって、正直鑑賞前は「黒澤明監督」「時代劇」というワードだけでハードルが高くて何となく難しい映画なんだろうな…という偏見を持っていました。

しかし、いざ観てみるとその圧巻の映像に終始鳥肌が立ちっぱなしです。


黒澤明監督が世界中で今日まで評価されている理由を開始数分で理解させられました…

どこの構図を切り取っても芸術的で美しく、かっこいい。そして画面の色彩構成がとても素敵でした。衣装も素晴らしかったです。

城に攻め入れられるシーンは特に印象的でした。暗い画面の中で不自然なほど鮮やかな赤色の血が流れている様子に残酷さを感じつつもどこか美しさも感じてしまって、それがまた余計に怖かったです。
城が燃える描写も圧巻でした。

役者陣の演技も凄まじく、仲代達矢さんの狂気的な演技には恐怖すら覚えます。
秀虎がかつて猛将だったことを老いてもなお感じさせる雰囲気があって凄い役者さんだなと…

全盛期には誰しもに恐れられていたのであろろう秀虎が次第に狂っていき、かつての猛将の姿は見る影もなく哀れな姿に変貌していく様には切なさを感じましたが、彼がこれまでしてきた事を考えれば因果応報。

「因果応報」とは言っても、この映画での因果は、人間が生み出しその報いをもたらすのもまた人間でしかありません。

神や仏は存在するかもしれないが、彼等はただ人間達の行いを俯瞰しているだけであり、人間を地獄に落としたり救いの手を差し伸べたりする存在ではないのだということを分からせられます。

信仰心のある末の方が手にかけられ、弟の鶴丸がひとり残されるラストのシーンではそれが顕著に表されています。彼の手から滑り落ちた仏の絵には、御加護などはなく、所詮は偶像でしかないのだという現実。

秀虎を中心として家族間で恨み合い、殺し合う彼等は愚かで滑稽に見えますが、その中にも秀虎と三郎のように親子の「愛情」も確かにあって、
そんな複雑な人間模様に感動させられると共に、愛しさも感じました。


楓の方のキャラクターもすごく良かったです。憎しみに燃え、強かに男を翻弄し圧倒する姿には衝撃を受けました。戦国時代が舞台で、厳しい男達が沢山出てくる中、この作品で一番かっこよかったです。



本当に観て良かったです。
花を摘む秀虎の姿は忘れられません。あのシーンが何気に凄く好きです。
らんら

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