GAYA11

乱のGAYA11のレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
4.8
高校生の時に初めてリアルタイムで「黒澤明の新作」を観た。この時若手の日本映画の監督たちが座談会で「30億かけてあの城かよ」みたいなことを言っていて、乱を見に行ったうえで、そんな人たちの映画には足元にも及ばない凄みを感じて帰ってきたのを覚えてる。説教くさいのはわかる。『隠し砦の三悪人』を下敷きに『スターウォーズ』が作られたり、『荒野の七人』にパクられりしたようなストーリーテラーが、わざわざ「リア王」をベースに空前絶後の悲劇的スペクタクルを遺してくれただけでもありがたい。そしてあくまで時代活劇を撮ってきたうえでできなかったアート時代劇。虚しさの活劇。つくづくこれだけやれるお金を集めてきてくれた人たちはえらい、と思う。もし『暴走機関車』も『トラトラトラ』も存在してたら、を思うと切なくなる。でも『乱』は存在する!

ということで高校生の頃は、実はな〜るほど、とか思っていた程度が10年に一度くらいどこかでやってると観てしまい、段々と好きになってクセになって、結局いちばん観ている黒澤映画になってしまった。能のような表現と武満徹の音楽だからか、他の晩年の黒澤明の中でも一味違う気がする。そういえば「ライフワーク」という言葉を覚えたのもこの作品だ。風と火と月と太陽と雲と荒野と城と埃と馬と草原、中でも山の斜面を這いあがる湯気と燃える炎はカラー撮影黒澤作品の中でも極め付け。あらゆるエレメントを使って隠居からはじまる欲と野望の玉突き事故戦争の幕が上がって閉じてゆく。見れば見るほどあっという間の展開。今回、4Kでスクリーンだったからか、はじめて真夏のシーンなのに吐く息が白いのを目撃した。逆にそれらがいろんな制作状況を想像して、気迫を感じる部分でもあった。
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