「時間分割居住契約」が厳格に運用されるあるアパート。秩序を重んじ機械のように正確な生活を送る小威と、自由奔放で倦怠の影を宿す小清――顔を合わせたことのない二人は、昼夜交替でそれぞれ11.5時間ずつ、同じ物理空間を共有していた。 直接的な出会いはないものの、折り目のついたトレヴァーの『生活の囚人』、一本の髪の毛、境界を越えた果実酒の缶、密かに変化する抽象画…これらの痕跡を通じて、境界と習慣と孤独をめぐる間接対話が始まる。 書き込みだらけのこの本は二人の密やかな精神の架け橋となり、互いに硬直した生活軌道に揺らぎが生じ始める。しかし一方が近づこうとすると、他方は後退する。やがて二人は潮の満ち干のように、短い相互浸透の後、それぞれの孤独の岸辺へ戻っていく。 これは現代人が咫尺天涯の距離感の中で、繋がりを渴望しながら越境を恐れる微妙な物語であり、人と人の間に見えずとも確かに存在する境界線を描き出す。
Ⓒ2025 11.5