認知症を患う高齢女性が、高齢者施設に移され（それは記憶が確かな頃に自分で決めたことのようだが）、尊厳による抵抗と受容、生活のわずかな喜びをフラットに描く。

おそらく、良いとか悪いとかではない。誰でも起こりうる未来を淡々と、静かに丁寧に映していく。それが、見ていて恐怖も感じるのだ。特に、着替え介助に対する態度を3回ほど、時期を変えて映している。従順に全てをやってもらうラストは、なんとも恐ろしいのだ。

そして、母親を施設に移した後に、コートなどを形見分けのように娘に譲る男、少し怖いな。もう家に戻らないという状況を考えると仕方ないのかもしれないが、自分がその母親だったらゾッとする。

主役のルスを演じるのは、主に舞台で活躍してきた女優らしい。少し、ティルダ•スウィントンを思わせる短髪の彼女の抑えた表情が素晴らしい。途中、ドイツ語で文句を呟くシーンは、ユダヤ系ドイツ人にルーツがあることを仄めかしているのか。（監督もやはりユダヤ系の家系らしい）

MUBIで鑑賞。
ゆったりしたテンポと優しい色彩で描かれる老人ホーム、認知症。ありのまま故の親密さと厳しさ。親やパートナー、そして自分の将来を思い浮かべずにはいられない。
ダンスシーンは感動させに来てるのを感じたが、とは言え自分が歳とって施設に通った時ダンスパーティーあったら嬉しいだろうな。