Jeffrey

ポーラXのJeffreyのレビュー・感想・評価

ポーラX(1999年製作の映画)
3.8
‪「ポーラX」‬

‪冒頭、ノルマンディーのセーヌ川の畔。
外交官の父、膨大な遺産、小説家ピエール、婚約者リュシー、黒髪の女イザベル、旅立ち、無謀な狂気、夕闇の森、決意、出発、苦難、家族、少女の死、廃墟の中、血の川、殺意。今、近親相姦的愛に陥てく絶望の果てが映し出される…本作はレオス・カラックスが1999年に仏、独、日、瑞合作映画で第52回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でパルムドールを争った作品で、残念ながらジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の「ロゼッタ」が輝いた。

確か、北野武の「菊次郎の夏」もコンペには入っていたような気がする。本作は冒頭にモノクロの資料映像的な戦時中の映像が流れる。主に戦闘機による空爆の場面である。そして大豪邸が描写され、道路を1台のバイクが疾走する。続いて緑の中を歩く青年、家で寝てるガールフレンドのベッドへ裸になって潜り込む。そして2人は愛し合う。

続いて夏の日差しを浴びて美しく輝く母の描写、ピエールは母を"姉さん"と呼ぶ。恋人のリュシーは夢に出てくる話をピエールにする。長い黒髪の女、そしてとある日その女は現実に現れ遠くから彼らを監視する。彼女を追いかけるピエールはバイクを転倒させ怪我をする。そして城にある隠された扉をハンマーでぶち壊し、その中を確認する…

物語はピエールは外交官だった父が他界した後、姉と弟と呼び合う仲の美魔女の母マリーと城館で豪勢な暮らしをする。そんな彼の前に突然、異母姉と名乗る女性イザベルが現れる…と単純に話すとこんな感じで、夜道をバイクで走っている所にイザベルと遭遇して、暗闇の森の中に入る時の横移動するカメラワークや延々と続く彼女の独白を見せつけられ途中で何を聞かされてるかよくわからなくなる。

やはり賛否両論巻き起こす監督の作品と言うのは非常に面白くて刺激的でかつ多層的、重層的な内容が魅力で、価値のあるものだと思う。言わばポリフォニックな群像劇である。彼の過去の3つの作品を見比べてみると本作は過去の作品に少しばかり新たな要素が混じり合っている感じがする。確か「ホーリー・モーターズ」の映画祭インタビューだったと思うが、彼が観客らに色々と質問されている中で、シネフィルがあなたの作品を存分に好むと言う問いがあったが、本作を見て改めてそう感じた。

それは1本の映画で2種類の作風を楽しめるような作り手の世界があるからではないだろうか(個人の意見)。暗闇の描写が多く感じ取れるのも本作の特徴の1つだが、物語の曖昧さが雰囲気全体を絶妙にしていると感じる。というかこの謎めいた感覚が知的な映像体験に伸し上げてる。と言うのも宗教性にも満ちている分、深みが出されている。

少しエッチな話になるが、主人公の1人カトリーヌ・ドヌーヴの胸元がすごくエロスを感じる。そう、胸元=おっぱいだ。

光と闇のコントラストも素晴らしいが、なんといってもあの不気味極まりない森の奥の闇である。そこに迷い込んだら一生…置き去りにされてしまうんじゃないかと言う感覚に陥る演出は素晴らしく感動する。

冒頭のクレーンショットも印象的だが、やはり謎のボスニア難民イザベルの正体も映画には欠かせないトリックであるし、光と闇の捉え方はもちろんのこと、画面の安定を失うコントラストの強い16ミリ映像に変わる場面も中々である。中でも血の河が映像的にはかなりのインパクト与えてしまう。それが題材の1つ"夢"を大きく映した場面である。

本作の主役の1人ギヨーム・ドパルデューは37歳と言う若さでバイク事故の院内感染によって亡くなってしまうのだが、事故起こしたのは95年で、その作品が99年と言うことになる。そのストーリーの中にバイクで事故すると言う彼の役どころがあるのが、なんとも不思議である。父はフランス映画会の大御所G. ドパルデューだ。

やはりカラックスの作風のヴィジョンには圧倒、圧巻されまくる。いい意味で見終わった後に疲れてしまうし、いい意味でずっと残ってしまう余韻が嫌がらせのように頭にこべり付き、離れない感じも辛い…。すぐに違う作品を見れないからである。

にしてもカラックスって当時、フランスとかでは結構叩かれていたような記事を昔見た事があるのだが、今はそんなことないのだろうか? 21世紀のゴダールと、もてはやされていたし、アンチにも色々と嫌がらせされたりとかしていたが、本人自体も中々マイペースで失言も多かった気もするけど…失言の多くの中には真実があると思うし、俺は嫌いじゃないな…会ったことないから人柄を褒められないが。

まだ未見の方は、このラストまで息もつかせぬエモーショナルな映像を堪能してほしい。

余談だが、彼の作品を見ていると主人公には父親と言う存在がない。

デビュー作もそうだし2作目も3作目も父の存在は不安定である。

これは何か意味があるのだろうか…だが、ホーリーモーターズではある意味父親が主人公になっている。

それとこないだ初めて見たデプレッシャン監督の撮影をほとんど担当しているエリック・ゴーティエが本作の撮影監督として抜擢されているのにも驚かされた。

通りで厳密な構図やライティングがなされていると思った。‬
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