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Sycorax(原題)
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『Sycorax(原題)』に投稿された感想・評価

Yuki
4.5
ある女性監督が「魔女シコラクス」役のオーディションを行い、誰がシコラクスになるのかを探す
そして今度は自然の中でのオーディションを行う……という実験的な映画

ロイス・パティーニョとマティアス・ピニェイロによる共同制作の短編映画
見たのはずいぶん前だけどレビューさぼってたので今投稿(こんなん無限にある)
パティーニョの風景性と、ピニェイロの演劇性が非常にうまく融合していて素晴らしい
このあとのパティーニョは演劇性を映画に取り入れるけど、これはやっぱりマティアス・ピニェイロから影響を受けたのが大きいみたいね(本人インタビュー)

原作はシェイクスピアの『テンペスト』だけど、話としては翻案とかではなくあくまでそれを元にした芸術映画という感じ
ただし『テンペスト』を知らないと核心を逃す作風ではある
まず魔女シコラクスは『テンペスト』において言葉を与えられなかった存在
ただプロスペローの言葉で「邪悪な魔女」と語られる不在の女性
このシコラクスに声を与える、というのが本作の試みであってその出発点も「なぜ私たちはプロスペローの語りを信じるのか?」「本当にプロスペローの言葉は正しいのか?」というもの

屋内のオーディションではパティーニョの風景性はまだ出ていない
1人1人が順番に用意されたシコラクスのセリフ(作中作でシコラクスが語るセリフ)を読み上げる
ここで重要なのは複数の女性が読み上げることによって「差異」が生まれていくこと
ある人は平坦に、ある人は優しげに読んでいく
それによって複数の「声」がシコラクスに与えられる
このオーディションは「どう演じるか」を見るシーンではなく「どう解釈するかを開く」シーンとして機能している
これはプロスペローという単一の語りへの対抗になっており、同時に再びシコラクスを固定された解釈へと閉じることに対する抵抗でもある

自然の中でのオーディションでは風景性と演劇性が強く共鳴しあい、そして融合している
自然を単なる背景として撮らず、むしろ人間を大自然に包み込むように撮っている
さらに木々のざわめき、風の声といった自然音もBGMのような扱いにはせず、人物が沈黙してただ歩いている場面でも自然音はよく聞こえる
これらによって、そこに神秘的な何かがあるような感覚……つまりシコラクスという「解釈」が溶け込んでいるような感覚がもたらされる
もちろん同時にこれは「秩序・支配・植民地主義・男性権力」を象徴するプロスペローと、「大自然に生きた魔女シコラクス」の対比
無数の木々、風景に人は溶けゆき、そして風景もまた登場人物となっており、単一の解釈に閉ざすことなくシコラクスを「風景」として表現しているのだ

誰が歴史を書くのか?
そして誰が沈黙させられるのか?
その人物に声を与えるとき、別の物語に閉じ込めているのでは?
という「物語」の問題をフェミニズムとポストコロニアリズムの視点から扱った芸術映画
その手法、風景性と演劇性の融合もテーマと合致してうまく機能しており、非常に巧みだと思った
死因
3.5
シェイクスピアの「テンペスト」が基となっているみたいだけど、単純に映像表現として楽しんだ。’’シコラックス’’は一体だれか?何処にいるのか?それを追うため、街から森へ移動する流れ。街では、人々に次から次へとフォーカスを当て、「彼か?彼女か?」と流れるカメラの動きが面白い。

また、「wind rain fire fog this island they want to steal ariel... this tree will take care of you」(シェイクスピアの『テンペスト』の現代版より魔女シコラックスが精霊アリエルに語った言葉)を計15名の女性に朗読させる場面では、語り手の視線や口調の変動など、当然「朗読」というアクションにおいて人物によって差異が見られるが、これが15人も続くことで最後尾になってくると人物の「面倒くささ」のようなものが感じ取れる。ここで、対象者と誘導者という構図が浮かび上がる。

森についてからはフレームは大自然に包まれるが、常にそこに何かが居るような空気案が保たれる。木々のざわめき、音、ロングショットやエンプティショット。ある大きな木をゆったりとしたティルトダウンで全体を収める動きなど、神秘的でありどこか不穏さを宿すフィーリングがとても好みだった。