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流されて…のripplesのネタバレレビュー・内容・結末

流されて…(1974年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

★が低いので期待せず観たが、途中から、この映画が評価されていないのは非常にもったいないと思った。
エロスや風景美や階級闘争が印象に残りやすいが、もっと深いと思う。人間の社会性と動物性の性をえぐる、めちゃくちゃ哲学的な映画と思った。

都市化され裕福な新自由主義の女性と、田舎の貧しい共産主義の男性。
ラグジュアリーなヨット遊びという“都市”の環境では、男性は弱者。女性は我を顧みる余白もないほど、自身の絶対性・優位性に漬かりきっていて、他者への攻撃を止めない。男性は、その都市環境では肉体的な優位性を発揮することはできず、肉体的には弱者である女性の攻撃に反発しながらも、富の優位性に屈服するしかない。
ところが、無人島に流れ着くという強制的な環境の転換の中で、その立場が逆転する。都市とは真逆の真の自然の中では、男性の肉体的な優位性に、女性は屈服するほかない。富は無価値だ。生き延びるためには、殴られても犯されても、強者に屈服し、諦め、懐柔するしかないのだ。人間の歴史の中で常に女性が弱い立場にある理由を、リアルに見せつけられた気がした。逆に言えば、ほんのここ数十年の男女平等思想や近年のMe Too運動などは、人間の都市化の産物と言えるのではないか。
男性は肉体の強さと強い立場を、ここぞとばかりに突きつける。都市の常識がご破算になった環境では、誰からも何からも咎められない。動物である男が強者として振る舞うのは自然の中で必然なのだと、これもまたリアルに見せつけられた気がした。ただし、彼らは自然の中で生まれ育ったのではない。社会性・都市性を帯びている。だから男性の瞳の中には少しだけ「揺らぎ」がある気がした。女性を力で押さえつけることへの揺らぎだろうか。。。
一方女性も、力任せに犯された後、おそらく初めて、頼りきっていた男性のもとを離れ、瞳を曇らせ一人思い巡らす時間を過ごす。この時間は多分、力への諦め、力と巧く付き合おうとする知恵、そして力への抗いがたい引力を感じていたのではないか。そう、SMが成立するように、虐げられてきた女性がそれでも男性の力に惹きつけられるように、力は魅力的なのだ。
男性の元に戻り、皮をはぎ取られたウサギ(性のシンボル・プレイボーイのロゴにもある)を見て、女性は「まるで私のよう」と言った。息の根を止められ、生身をさらされ、痛々しく、悔しく、でも性に突き動かされてしまう。殴られても男性を求める姿勢は、本能的な性衝動でもあり、おそらく懐柔の知恵でもあったと思う。
そこからの「愛」の展開がさらに興味深い。愛が深まっても、男性は暴力を止めない。女性も愛情が薄れる様子はない。暴力と親密さ(tenderness)は同居するのだ。なんて動物的だろう。女性は「ここで野性的に生きたい」と、「とても幸せだ」と言う。
やがて船が来る。女性は、元の世界に戻りたくない、戻るのは怖いと言った。環境の圧倒的な力を本能で感じている。一方男性は「試す」と言った。環境に抗い愛を貫けるか、自分たちを試すんだと。自然に分け入り、生物と戦い、生き延びる力を持つ男性ならではの視点かもしれない。
結果的に、女性は裕福な“都市”の男の元へ帰っていった。愛とは裏腹に、安心・安全・心地よい環境を選んだ。本能で生きれたら幸せだと知っているのに、女は身を守るしかないのだ。男性は怒り狂う。裏切者!と。「女に裏切られ、海にも裏切られた」と。同志主義の共産主義思想においては、裏切者という観念は大きい。それに、これは私見だが、男性の方が恨みつらみが強い。女性はしなやかだ。この映画はそれを見事に描いている。
男性は、浮気を知り激怒する妻と、一度は決別する様子を見せる。だが結果的に、大きな荷物を持ち立ち去ろうとする妻のカバンを持ち、一緒に帰っていくのだ。男性もまた、社会の中で安全を選ばざるを得なかったということか。

「自然に放たれた男女が、美しく助け合って生きてく・・・」的な単純な映画じゃなくて良かった。実に人間らしい様を描いてくれた。

テーマ、プロット、映像美、生々しい演技、めちゃめちゃ面白かった。
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