ボブおじさん

ロッキーのボブおじさんのレビュー・感想・評価

ロッキー(1976年製作の映画)
5.0
700本目の映画は自分の人生に最も大きな影響を与えたこの映画。人生には勝つことよりも大切なことがあると教えてくれた。

最初に観たのは中学に入学した直後、仲の良かった友達と2人で観に行った。弱かった主人公が努力して世界チャンピオンになる話だと思っていた。

だが違った。そして言葉にできない猛烈な感情が自分の中を駆け巡った。その日から自分の中のヒーローは、ブルース・リーから「ロッキー」へと変わり、部屋のポスターも張り替えた。

翌週もう一度観に行った。今度は1人で、生まれて初めて同じ映画を2回観た。

余りにも有名な映画なので、今更ネタバレにはならないと思うが、最後の戦いで彼は勝っていない。だが、そのことは、さして重要なことではない。

果たしてあの映画を観て、彼が敗者だと思った人はいるだろうか?彼は試合には敗れたかもしれない。だが彼にとっても観客にとっても、そんな事はどうだっていいことだ。

ボクシングでは食っていけず、借金の取り立て屋として日銭を稼ぐ何者でもない男。そんな彼が1人の女性と出会って生まれ変わる。自分がただのゴロツキではないことをその女性に見せる為だけに、彼は無謀な戦いのリングへと上がるのだ。

イタリアの種馬ロッキー・バルボアの人生は、則ちそのままシルヴェスター・スタローンの人生だ。

幼い頃に両親が離婚して、弟と別々に育てられた彼は、親の愛を受けずに育った。ケンカによる退学などで12年間で12回の転校を繰り返した青春時代、彼の唯一の逃げ場は映画館だった。

映画の中には理想の人生が描かれていた。〝暖かい家庭と勧善懲悪の物語〟スクリーンに映し出されるヒーローに彼は憧れた。

自分の理想を追いかけ、彼は役者への道を進む。だが、先天性の病気で滑舌が悪く、おまけにタレ目の彼は、オーディションに落ちまくる。辛うじて与えられた役はチンピラやゴロツキの役しかなかった。

理想の自分を演じる為、彼は自分で脚本を書き始める。そんな時、偶然見たボクシングの試合に閃きを受けたスタローンは、3日間でこの映画の脚本を書き上げた。

プロデューサーは、売り出し中のライアン・オニールかバート・レイノルズで映画化を企画するが、スタローンは、映画化権を盾に自分の主演を譲らない。プロデューサーは根負けし、遂に彼はリングへと上がる。

ボクシング世界ヘビー級チャンピオンのアポロが〝アメリカ建国200年記念祭〟の催しで、無名選手にチャンスを与えようと言い出し、無作為に選んだロッキーを挑戦者に指名する。降って湧いたチャンスを得て、ロッキーは想いを寄せる女性エイドリアンに、15ラウンドの最後まで戦い抜くことで自分の愛を証明すると約束する。

冷静に見れば荒唐無稽な話なのだが、チャンピオンのアポロ・クリードのショーマンシップに溢れる人物描写が抜群に上手い為、すんなりとこのドリームマッチを受け入れられる。

この辺りの細かい描写の脚本が見事。併せてアポロを演じたカール・ウェザースのキャスティングの勝利だ。元々予定されていた元ヘビー級ボクサーの名選手ケン・ノートンが演じていたらここまでの性格描写は出来なかったはずだ。

ちなみに、アポロのモデルは、誰がどう見ても あのモハメド・アリであろう😊

このアポロに限らず、タリア・シャイアのエイドリアンやバート・ヤングのポーリー、そしてなんといってもバージェス・メレディスが演じた老トレーナーのミッキーなど、今となってはこれ以上ないと思われるキャスティングだった。

加えてこの映画を名作に押し上げたビル・コンティの主題曲が血を湧かす。今でもこの〝ロッキーのテーマ〟を聴きながら走ったりトレーニングしている人が世界中にいるだろう。もちろん私もその中の一人だ😊

この映画は、スポーツ映画あるいはボクシング映画として見ると粗も見える。だが、これは〝完全無欠の愛の映画〟だ。愛の力が有れば、どんな人間でも生まれ変わることができる。やればやれるの話なのだ。

〝世の中で輝くことができない男と女の純愛〟の力が、人生の負け犬を復活させる。愛の何たるかなど知らない当時の私にもその事はわかった。

その後、この映画は、私のバイブルになった。中でもロッキーのテーマと共に街中を走り、今では〝ロッキー階段〟(The Rocky Steps)と呼ばれるフィラデルフィア美術館の階段を駆け上がるシーンは爽快だ。

大好きなこの映画を何度も見返すうちに新たなことに気がついた。この映画は、〝愛の物語〟であると同時に〝勧善懲悪〟の話でもあるのだ。善は、もちろんスタローンだ。だが、悪はチャンピオンのアポロではない。

映画はスターが出なければヒットしない。
ヒーローはカッコよく言語明瞭。
ヒロインは明るく、魅力的な美女。
主役が軽妙な口調でジョークを飛ばし、
ブロンドの美女が口角を上げて
白い歯を見せニコリと笑う。

この映画には、そういった要素は一つも無い。そうした既成概念こそが悪だったのだ。スタローンは、この映画の大ヒットでハリウッド映画人の悪き思い込みをたった一人で打ち破った。

製作費僅か100万ドル、撮影日数28日というこの小作品は、世界中で熱狂的な支持を得て、アカデミー賞作品賞、監督賞、編集賞を受賞。シルヴェスター・スタローンを一躍スターに押し上げた。以後の彼の経歴は説明不要だろう。

たった1本の映画でスターの座に上り詰め、映画界の常識を打ち破ったこの作品。好きな映画を問われたら迷わずこの映画と答えている😊