MASAYA

ルパン三世 カリオストロの城のMASAYAのレビュー・感想・評価

4.4
【奴はとんでもないものを盗んでいきました】

まさか、ルパン史上の最高傑作を劇場で、しかもMX4Dで観ることができるとは思いもよりませんでした。
まずは『ルパン三世』の原作50周年記念のこの企画に感謝したいと思います。

好きな作品なためネタバレ全開でいくのでご容赦ください。

さて内容は言わずもがなですが、精巧な偽札(ゴート札)の製造がヨーロッパのカリオストロ公国で行われているという伝説を暴く、ルパン一味がカリオストロの城に侵入するというものです。

まずはオープニングのカーチェイスが素晴らしいです。アルファロメオではなくオンボロのフィアット500でスリル満点な駆け引きを繰り広げます。アニメーションにおいて、これだけの迫力アクション且つ手に汗握る展開は見事としか言いようがありません。またチェイスシーンに合わせて流れる誰もが知る「ルパン三世のテーマ」でより一層胸が高鳴ります。

けれども何と言っても本作で特筆すべきなのは“ルパン像”でしょう。
ルパン作品ですが、監督はあの宮崎駿であることを忘れてはいけません。優しいタッチで描かれる唯一無二のルパンが存在します。
宮崎駿監督曰く本作のルパンは「六十年代末から七十年代頭に一番生き生きしていた男が、今、生き恥をさらして生きている」だそうです。そのような設定にすることによってオリジナルのルパンを生み出したのでしょう。

つまり本作のルパンは“優しいおじさまルパン”ということです。
それを象徴するかのように
・かつて若気の至りでカリオストロ城に忍び込んだこと
・不二子との関係は過去のものであること
・いざというときには紳士的
等が描かれています。

指輪を見つめ、クラリスに以前助けられたことを思いだし、「大きくなりやがって」という台詞には優しさしか感じません。
カリオストロ公国の摂政にして城主というカリオストロ伯爵に幽閉され、挙げ句の果てには財宝目当てで結婚までも強いられた、不幸な王女を救いだすためにあの手この手と策を練り奮闘するルパンの姿に胸打たれました。

江戸川乱歩の『幽霊塔』がモチーフとされる16世紀の時計塔に忍び込みクラリス王女と再会する場面、「今はこれが精一杯の演出だとしても泥棒として貴女を自由の身にする」と約束した姿は涙ものです。
普段のルパンといえば、自由気まま、快活、女好き、啓発、そんなイメージですが、このシーンではルパンの真情しか描かれていません。そこには下心など一切なく、ただひたすらにクラリスを救いだしたいという、純粋な気持ちだからこの上なく美しい仕上がりになっているのだと思います。

もちろん本作でも何度もおちゃらけたり、バカをすることはあります。けれどもそのようないつものルパンがちゃんと描かれているからこそ本作特有の“ジェントルマン”な一面が浮き彫りとなるのではないでしょうか。

そしてあまりにも有名なラストシーンですね。「ついていきたい」と言ってルパンに抱きつくクラリス王女に対して、本心をグッとこらえ、おでこにキスをして別れを告げるルパンは最後の最後まで魅力的でした。

そりゃあ“あなたの心”も盗んじゃいますよね。でもそんな名台詞を残した銭形刑事ですが、休戦中にもルパンに「盗人の手助けはしないぞ」と言っておいて、クラリス王女を盗み出すのに一役買ってるあたりが逆説的で素敵です。

このような至高の作品をスクリーンで観ることができて、嬉しさと作品の素晴らしさのあまり何度も感涙してしまいました。


2017.1.29
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