蛇らい

ルパン三世 カリオストロの城の蛇らいのレビュー・感想・評価

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4K+7.1ch(ダウンコンバート)上映にて。おそらく人生で1番観た回数が多い作品。見る度にまだまだ発見があり、驚かされる。

ルパン三世は、PART1(1971)から大塚康生、高畑勲、宮崎駿といったレジェンドクラスのアニメーター、アニメーション作家が参加している意味で、とても恵まれた作品と言える。特に本作はその恩恵を最も受けている。

大塚康生の立証主義に基づく実在の銃や車、酒、タバコ等を登場させ、より作品に血がかよった本物志向だ。それに反してアニメーションならではの誇張した動き、特にアニメ史屈指の名カーチェイスシーンにおける車を生き物の様に動かす演技は涙が出る程に素晴らしい。

すでに全盛期が過ぎたであろうルパンの悲哀が前傾化しているのが特徴で、まだ何にも染まっていないクラリスと、最後まで一定の距離を保つ。血生臭く、社会の陰でしか生きられない孤独な泥棒家業という自身の生き方や存在を、綺麗な瞳になるべく映さないようにしようというルパン生来の優しさも垣間見せる。

例えば、カリオストロ伯爵の城に閉じ込められている部屋に侵入し、クラリスと対面するシーンでは、自己紹介がてら万国国旗やバラの花を使った手品をして見せるなど、監禁されているという陰鬱で血生臭い状況であえてエンターテイメントに徹する姿はルパン三世という人物像においても重要だ。

伯爵との結婚の儀式でもわざわざ死神のようなビジュアルで舞台さながらの演出をしたり、単なる爆弾ではなく花火を使用したりと、クラリスの純粋な心象にルパン自身の闇の側面で汚したくはないという強い意志が見える。

使われたバラはルパンが生死を彷徨った、大公家の敷地の庭に植えられていたものと同一で、クラリスが気づかずとも潜在的に安心感を与えよとしていたのではないかと思うとそれも泣ける。

ルパンの悟り、自らの限界と終焉を示唆したセンチメンタルな作風は、後のアンチカリオストロを掲げて作られるルパン作品にも良くも悪くも影響を与えた。わかりやく、しかし極めてハイコンテクストな作品である。それでいて、国民的規模のアニメーション作品になり得た奇跡的な金字塔をこれからも愛でて行きたい。
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