
中原文は、幼い頃、空襲に遭い、空襲以前の記憶を失った。両親の記憶が全く無い文は、一番愛してほしい親から名前を呼ばれて味わう温もりも知らないまま、終戦後を必死に生き抜いてきた。例年、春季慰霊大法要に参加し、断片的な記憶を辿って育った家や両親の名を探し求め続けている。死期を間近にした今年も大法要に参加するが、手掛かりすら見つけられずにいた。そんな文は、長期滞在中のホテルで若い経営者・佳奈と出会う。佳奈は経営難により地主から立ち退きを迫られていた。それぞれに痛みを抱えた二人は、やがて心を通わせていく。佳奈たちとの親交が、やがて文の止まっていた時間を動かし始めた。文は、失った記憶を取り戻せるのだろうか?