猫脳髄

人間解剖島/ドクター・ブッチャーの猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.2
年末年始ユーロ・ゾンビ特集3/7~イタリア編②

監督はイタリアの職人監督フランク・マーティンことマリノ・ジロラミ(※1)、脚本はロマノ・スカンダリアトである。イタリア公開(1980)版は89分、日本・アメリカ公開版は82分である。同時期に撮影されたルチオ・フルチ「サンゲリア」(1979)とはロケ地、セット、車両の一部、そして主演のイアン・マカロック(※2)も兼用しており、何だか既視感が強い。

ニューヨークで発生した食人事件を調査すべく、マカロックやアレクサンドラ・デラ・コリ(※3)ら研究チームが東南アジア・モルッカ諸島に飛ぶ。現地駐在の研究者ドナルド・オブライエンの支援を受けて食人族の島に上陸したメンバーを襲撃する原住民。危機に瀕するメンバーの前に突然ゾンビたちがあらわれ…という筋書き。

日米公開版は縮約されたうえに、何と冒頭にまったく無関係の未完成映画(ロイ・フランケス撮影)をくっつけるという荒業である。先にこちらを鑑賞したためかなり面食らったが、アメリカの映画興行ではよくある話といってよい。冒頭に墓地の映像が出たら「ハズレ」と思っていただきたい。

ただ、伊公開版が必ずしも「アタリ」ではなく、類作からのサンプリングのため既視感が強いシナリオ、間延びした演出、やる気のないマカロックの演技、ユルい電子音の劇伴とダルいポイントは多い。一方で、あまり説明的にしない部分は好感が持てる。ゾンビ映画と思い込むと筋が悪いが、「モロー博士の島」のようなマッド・サイエンティストもの、秘境アドヴェンチャー映画と解釈すべきだろう。

さらに、人体破壊描写はなかなかのもので、食人族に襲撃され目まで食い散らかされる白人男性、モータボートのスクリューでバリバリに破壊されるゾンビ、マッド・サイエンティスト(※4)による美女へのいい加減な手術シーンなど見どころは多く、やはり過激さに走る典型的なイタリアン・ホラーなのである。

※1 エンツォ・G・カステラッリの父君。マカロックいわく「フルチよりも意地が悪い」らしい
※2 役名も「ピーター」で揃える兼用ぶりである
※3 最近どこかで見たなあと思っていたら、ルチオ・フルチ「ザ・リッパー」(1982)で思わせぶりに登場してあっさり殺された有閑夫人役だった。ウルスラ・アンドレスあたりのジェネリック女優
※4 「ドクター・ブッチャー」のふたつ名はアメリカ側の編集で勝手につけており、劇中では語られない
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