キム・ギドクのデビュー作。
『鰐』は絶望的な映画だ。
裏切り、嫉妬、孤独、そして絶望。
主人公の鰐はきっと何故自分が悪辣で粗暴な男になったかがわからない。ただ気付いたらそうなっていたのだ。
鰐はそうなることで自分自身を守っていたのだろう。
自殺しようと川に飛び込んだヒョンジュンを助けたのも、けっして優しさからではない。
ヒョンジュンが美しい女だとわかると、今度は性欲処理の道具として扱う始末。
本物の鰐さながら、川で獲物を狙っているのだ。
助けられたヒョンジュンは鰐に犯されながらもその場に留まる。
これをヒョンジュンの母性と捉えてはいけない、彼女もただ絶望しているだけなのだ。
鰐はそんなヒョンジュンに惹かれる、彼女から愛情を感じるのだ。
鰐は彼女を愛することで、優しくなろうとする。
けれど彼には人を愛する方法がわからない。
ヒョンジュンを、鰐の暴力に耐えそれでも彼を思っている女性、と考えてはいけない。
男の誰しもが望む、究極の女性像。
どんなことをしても自分に付き従う。
女性蔑視だ、とこれだけでアレルギーを示す人(特に女性)がいると思う。
けれどヒョンジュンはそんな女ではない。
そう映るのは鰐の視点で物語を見るからなのだ。
そしてこの映画はそういう風に描かれている。
鰐がヒョンジュンと結ばれたと感じたとき、彼女は絶望したのかもしれない。
鰐には未来が見えたのかもしれないが、ヒョンジュンには終わりが見えたのだ。
ラストの水中でのシーンは本当に美しい。
ヒョンジュンと結ばれようとする鰐のとった行為は哀しいが、それよりも鰐がその想いに殉じることができないと悟ったことが何よりも哀しい。
水中で、その鰐の気持ちの変化を、美しく映し出されていることがとても絶望的なのだ。