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レイチェル・カーソンの感性の森のodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【語る形式の映画】

『沈黙の春』で、DDTの害毒を告発したレイチェル・カーソンを扱っています。

ここの分類ではドキュメンタリーとなっていますが、彼女はすでに亡くなっているので、女優が彼女の役を演じ、おのれの半生を振り返りながら語る、という形で作られた映画です。彼女の愛した海辺の別荘が主たる舞台ですが、DDT告発によって一躍有名になったものの、それゆえに批判も多く受けたことなども、あくまで語りとして語られるので、非常に淡々とした印象が残ります。上映時間も1時間未満ですし、簡潔でいいという見方もできるでしょうが、やや食い足りない気持ちも残りました。

もっとも彼女はガンに冒されて、延命治療を受けて苦しみながら執筆活動を行いました。この映画でも杖をつきながら紅茶を入れ、必死に執筆を続けようとする姿が映し出されており、ここにはそれなりに観客の心を打つものがあります。また、彼女が愛したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲も効果的に使われています。私もこの曲は好きなので、同好の士として好感を持ってしまいました。

ただし、この映画はあくまで彼女の視点での物語ですから、彼女に対する批判の内容にまでは踏み込んでいません。彼女の活動でDDTの使用は禁止されたのですが、そのためにマラリヤの病原菌を媒介する蚊が野放し状態になり多数の死者が出たという批判があるわけです。DDTを使っていたら蚊は野放し状態にはならなかったのだから、マラリヤで死ぬ人間ははるかに少なかったはずだというわけです。

とはいえ、DDT使用を放置していれば毒が蓄積されて自然界全体に悪影響があることははっきりしているのですから、この辺はどうバランスを取るかということでしかないでしょう。人類の未来と現在に生きる人々のため双方を考え、将来に毒が残らないような農薬を開発していくしかないのではないでしょうか。言うは易く行うは難いと笑われそうですが、その点では人類の進歩を信じるしかないと思います。
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