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シュシュシュの娘のodyssのレビュー・感想・評価

シュシュシュの娘(2021年製作の映画)
2.0
【低予算、低レベル】

こないだ入江悠監督の『あんのこと』を見て、入江監督としては(韓国映画のリメイクを除くと)よくできているなと感心した。

しかし、同時に、過去に入江監督が作った芳しくない出来の映画があったことを思い出してしまった。申し訳ないけど、公開時点で書いたレビューを多少手直しして、以下に投稿する。

埼玉県某市の市役所に勤務している若い女性(福田沙紀)がヒロイン。寝たきりの祖父と二人暮らし。

彼女が暮らす市の市長は「移民排斥条例」を施行して日本人だけが住む市を実現すると公言している。この条例に反対する市民は、「自警団」により暴力を振るわれる。寝たきりの祖父も条例反対派なので、或る日、襲われてしまう。加えて、市役所内では文書改竄を迫られた職員(井浦新)が自殺に追い込まれる事件も。そこでヒロインは・・・

埼玉県の某ミニシアターが出てきたりして、いかにも地方に根ざした映画という感じがするけど、そして低予算でもそれなりの映画もあるけれど、これは残念ながら「安かろう、悪かろう」である。

基本的な設定がナッテイナイことが大きい。今どきどこかの都市で「移民排斥条例」を作る動きが出たら、新聞やテレビなどマスコミで話題にならないはずがない。まして暴力事件が起これば、ニュース種にならないはずがないし、警察だって動かないはずがない。この映画ではしかし、市長派や自警団はやりたい邦題で、マスコミも警察もいっさい出てこない。

つまり、入江監督はそういう基本的なことが分からない人なのである。それは、失礼ながら監督の知的レベルが低いということを意味する。社会の問題点を説得的な映画作品にしたいなら、もっと勉強してからにしろ、と言いたい。

例えばの話、移民や難民を扱った映画としては『海辺の彼女たち』がある。この映画は、技能実習生として来日した若いヴェトナム人女性たちが東北の小さな漁港で労働に従事する様子を描いていた。また彼女たちが辺鄙な町で働くに際してはヴェトナム人ブローカーが介在している事実も、である。

或いは『東京クルド』。これは現在ニュースになりつつある川口市在住のクルド人の問題を扱った映画だ。在日クルド人の苦悩はたしかに伝わってくる。と同時に、冒頭に在日クルド人と在日トルコ人の暴力を含む対立がちゃんと描かれている。つまり、移民を国内に入れるということは、その移民と他の在日外国人との対立を招じ入れることでもある、という事実をちゃんと捉えているのである。

それに対して入江監督の『シュシュシュの娘』は、現代日本における移民問題のそうした常識や知識をまったく欠いている。悪い意味でマンガチックな、小学生が作ったのかと思われる程度の作品なのだ。

登場人物の声も聞き取りにくい。俳優の発声が悪いのか、録音技術に問題があるのか。いずれにせよ、こういう基本がナッテナイ映画は、所詮は三流作品の域を出ないのである。
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