akrutm

執炎のakrutmのレビュー・感想・評価

執炎(1964年製作の映画)
4.2
戦争によって引き裂かれる男女の運命や戦争の悲惨さを、女性の執着的な愛を通じて描いた、加茂菖子の同名小説を原作とする、蔵原惟繕監督の恋愛映画。当時の日活の看板女優である浅丘ルリ子の100本出演記念として製作された。相手役は、当時まだ新人だった「伊丹十三」に改名する前の伊丹一三。(個人的に)重要な脇役として、伊丹一三演じる拓治のいとこ役で、芦川いづみが出演している。

太平洋戦争時の山陰・因幡を舞台に、徴兵で戦地に招集されて夫と二度も引き裂かれてしまう女性を描いていて、ストーリー的には平凡であるが、そこは本作の見どころではない。平家の落人集落の出身であるという、どこか神秘的なイメージが付与された主人公・きよのが、夫の拓治にどんどん執着していく様子が、浅丘ルリ子の絶妙な演技によって、印象的に描かれている。

映画はきよのの七回忌に芦川いづみが参列する場面から始まり、そこからきよのと拓治の恋愛ストーリーが展開していてく。映画の最初のほうはナレーションが多く、ストーリーをただ追っていくだけの映像がやや退屈であったが、一回目の招集で拓治が怪我をしてからのきよのの拓治への執着ぶりは見応えがある。元気な頃の拓治に戻らなければ意味がないとばかりに、足の切断手術を拒否して拓治を回復させていくあたりは、現実感が薄いとはいえ、なかなか凄い。そこからきよのが自死するまでの展開も、静かな演技ながらも鬼気迫るものがある。浅丘ルリ子と対比させる形で、芦川いづみの大人びた演技も印象的である。

また、映画全体を通じてポイントとなる、鉄橋でのシーンがとても印象に残る。結婚前のデートで鉄橋の待避所で抱擁する二人の姿から始まって、重要な場面で二人の行く末を象徴するシーンとして用いられている。ロケで使われたのは、兵庫県の余部橋梁である。
akrutm

akrutm