みおこし

ジョニー・ベリンダのみおこしのレビュー・感想・評価

ジョニー・ベリンダ(1948年製作の映画)
4.2
またまたクラシック映画の傑作と出会いました。アカデミー賞主演女優賞獲得作品。

カナダにある海沿いの街はずれで製粉所を経営しているマクドナルド兄妹の元に、医師のリチャードソンがやって来る。兄ブラックの娘であるベリンダは耳が聴こえず話すこともできないため、愛情も与えられずまるで下女のように扱われていた。それを見かねたリチャードソンが彼女に手話を教えてみると、彼女は瞬く間に言葉を覚えていく...。

これこそいつか必ずリメイクしてほしい...!もともとブロードウェイの舞台劇だった作品を映像化したそうですが、当時としては異例とも言える、障がい者が抱える孤独、性暴力、そして閉鎖的な村社会の現実などシビアな問題に真っ向から挑んだ意欲作。実際に昔カナダであった事件を元にしているのだとか。
どこか物憂げな印象を与える、影を使った照明、アップを多用して人物の感情を色濃く炙り出すカメラワークなどが、イングマール・ベルイマンやジャン・ルノワールなど、ヨーロッパの監督の作品を彷彿とさせました。

心無い噂が町中に溢れ返り、リチャードソンとベリンダが次第に孤立していく様子はあまりにリアルだし、今の時代でも十分にあり得ること。
"Me,too"運動が盛んになってようやく自分が受けた辱めについて主張できる時代になってきましたが、この映画で描かれた時代は、今の世の中とは雲泥の差。性暴力の被害者が心と体に抱えた傷を周りに訴えるのはすごく難易度の高いことで、しかもそれが障がい者であれば、さらに状況が厳しくなることは容易に想像できます。
その意味でも、1948年という時代にそんなテーマに切り込んだ監督やスタッフの勇気には脱帽です。

とにかくベリンダ役のジェーン・ワイマンの圧倒的な演技力、これに尽きます。一切セリフは無し。とにかく表情と仕草、手話だけで表現しているのに、彼女の感情が手に取るように分かるから本当に不思議。半ば人間として扱われていなかった少女が、医師との出会いを通じて人間らしさを取り戻していく様を見事に演じきっていて、オスカー受賞も納得。よく、メソッド演技法が確立する前の古い映画ほど、演技が仰々しくなりがちだと言われますが、そんなこと微塵も感じさせない役への憑依型の演技でした。
リチャードソン役のルー・エイヤースも、「人が良すぎるのが欠点」と周りに言われてしまうほど、慈愛に満ちた医師を好演。リチャードソンとベリンダの某シーン、あまりに真に迫る素敵な場面で涙が止まりませんでした。
マクドナルド兄妹役のチャールズ・ビックフォード、アグネス・ムーアヘッド、そして町娘ステラ役のジャン・スターリングも素晴らしかったです。
みおこし

みおこし