とーるさんし

美味しんぼのとーるさんしのレビュー・感想・評価

美味しんぼ(1996年製作の映画)
5.0
「飯の美味しさ」を伝えるためにはどうすればよいか。役者の台詞と芝居を撮るしかないよ、と森崎東は言う。

一体どのような指導をすれば可能になるのか見当もつかないが、ここで役者陣は美味さを伝えるため「だけ」の官僚的な芝居とは一線を画す、活き活きとした、しかし、あくまでも日常生活の延長上にあるような普通の芝居を見せる。

森崎東はそうした普通の芝居を「これしかない」というショット、カッティングで映画に仕立て上げていく。料理対決や厨房での描写における引き・寄り・切り返し等の的確さを見よ。そこには何ら作家的野心もなく、ひたすらに語りに徹する映画職人の美しさのみが存在する。

そしてさらに凄いことに終盤、佐藤浩市の煮豆作りの開始と共に映画は突然疾走しだす。佐藤、三國らの職能的運動や樹木希林の歌、遠山景織子の佇まい、自転車での煮豆売りが醸し出す意味不明の感動。それは技術や理論を超えた、映画の奇跡ともいうべきものなのかもしれない。

「透明」とはこのような映画のことを呼ぶのだ。90年代邦画ベストの一本。泣きに泣いた。
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