新文芸坐さんに「安部公房生誕100年 超越する芸術・勅使河原宏との仕事」と題した特集上映。初期代表作『砂の女』(1964)『他人の顔』(1966)を鑑賞。
『砂の女』(1964)
ある高校教師(演:岡田英次氏)が昆虫採集の途中、村人(演:三井弘次氏)に出会い宿を紹介されるが、蟻地獄のような砂地の宿から逃げることができず、宿に住む女(演:岸田今日子氏)と反目し合うが、やがて惹かれ合う話。プロットとしてはスティーヴン・キングの『ミザリー』(1990)に近いかと思いきやさにあらず。
男は何度も砂地からの脱出を試みるが、井戸水が毛細管現象で手に入ることを発見したり、女との間に子どもを授かったりするなかで、ストックホルム症候群なのか、新たな自分の居場所を見つけたのか脱出に成功しても砂場に戻ってしまう。
脚本も阿部公房氏が担当しており男と女の心境の変化、失踪三部作の第1弾として現代人の心の病巣をしっかりと描かれていましたね。
監督の勅使河原宏氏は流石、東京藝術大学日本画学科、洋画科卒業だけあって、どのシーンも美麗。特にもうひとつの主役である砂丘の風紋や崩れ落ちるシーンは白黒映画ならではの陰影、カラーでは再現できませんね。二人の体にこびりつく砂粒もリアルで砂場の生活の過酷さを見事表現していました。
岡田英次氏の演技も素晴らしいですが、未亡人役の岸田今日子氏の段々と女に目覚めていく過程は白眉、彼女の代表作ですね。
また村人役の三井弘次氏のいかにも訳ありで底意地が悪そうな感じも良かったです。