所沢

マイ・マザーの所沢のレビュー・感想・評価

マイ・マザー(2009年製作の映画)
4.3
先日Amazonプライムで鑑賞。

この作品は劇場公開当時に
今はなき六本木のシネマートさんで鑑賞しました。
当時であれば☆1とかだったと思う。

当時の感想は『叫んでキレてばっかりでなんて胸糞悪い映画だ!』と思いました。
そしてこんな美しい少年になんて事させるんだよ!
誰だよこんな事やらせてるの!
いや、作ったのこの美しい少年本人なのかよ!!
とビックリした記憶も笑

それから数年経って鑑賞した結果、
⭐︎4.3になりました。

ジョンF〜も含め、今年に入りドラン作品はほぼ鑑賞しました。
それを踏まえて『マイマザー』を改めて観ると、このデビュー作にドランの全てが詰まっているんだなと実感し、またその妥協のなさに驚愕しました。

でもドラン様、『マイマザー』から『mommy』でやりたいこと全部やっちゃってない?

自分の中にある芸術や哲学や感性の全てをこんなにも思い切りぶつけ表現出来るのはやはり才能という言葉は避けて通れないと思う。

ドランのすごいのは、『わたしはロランス』でも感じましたが、セクシャリティな部分の心情の描き方が、当事者だけでなく周りの人間の心理的な部分もとても繊細に表現されている。
言葉と言葉だけではない部分での表現をデビュー作でこんなに描いているなんて、時を経て再鑑賞し本当に驚いた。

果たしてこれは大胆なのかセンスなのかダサいのか派手なのかと揺さぶられるように翻弄される中にある繊細さがドラン作品は魅力だと思っていて、『マイマザー』はその繊細さがまぁ壊れたガラスのように少しでも触れたら肌を切りそうな鋭さで尖ったまま鈍く美しく光っている。

どうしたって主演としか思えない、
どうしたって目が惹きつけられる、
美しい容姿のグザヴィエドラン。
監督、プロデューサー、衣装。
当時10代のドランは役者や吹替のオーディションに落ちることが多くなり、それでも演技の仕事がしたいと資金を自分で集め、学校の授業で書いた小説をもとに脚本を書き自ら主演監督し制作にいたったというのがこの作品というから本当に舌を巻く。
(これは『マイ・マザー』本編にも出て来るシーンのもとになっている実際のドランのエピソードの一つ)

今やドランも監督としてベテランの領域だけど、こんな風にセルフプロデュース力もあって一発屋で終わらない人物は、新人や若手監督ではもうなかなか現れないんじゃないだろうか。

デビュー当時青年だったドランも今や確実に大人になっている。
ドランは果たしてここからどう舵を取っていくのだろうか。
ドランが父親や父親世代の男性を描いたり少女を描くことが今後あるのだろうか。

成長とともに綴られる彼の作品を今後も観るのがとても楽しみで、同じ時代に生きていられる事がすごく嬉しい。
これからもずっとドランに翻弄させられたい。


作中のドラン演じるユベールの言葉。
「“違い“を理解する知性に欠けてるんだ」

果たしてこれはあの当時の青年ドラン自身のセリフでもあるのか……。

他人にはきっとすすめないけど、
わたしはこのドランのデビュー作が大好きだ。
所沢

所沢