EDDIE

フィラデルフィアのEDDIEのレビュー・感想・評価

フィラデルフィア(1993年製作の映画)
4.0
トム・ハンクス初のアカデミー賞主演男優賞受賞作にして、ハリウッドで初めてエイズを題材にした意欲作。ゲイに偏見を持つ1人だった弁護士ミラーが徐々にベケットを1人の人間として敬意を抱くようになる過程に好感。ブルース・スプリングスティーンの主題歌もいい。

思うところもあるが、概ね凄くいい映画でした。
基本的にいい人(優しく穏やかな人)の役が定着しているトム・ハンクス。本作でも間違いなくいい人ではありますが、ゲイのHIV感染者という役柄を見事演じています。
トム演じる主人公のアンドリュー・ベケットはフィラデルフィア随一の法律事務所の弁護士。若手の頃から目をかけられ、期待を受けていた有望株でしたが、ある日突然クビの宣告を受けます。
額にアザがあったことで彼はエイズだと疑われたわけですが、これを不当だと自分が育ってきた事務所を訴えることに。

おそらくハリウッドでエイズを主題として扱う初めての作品として知られていますが、何よりもトム・ハンクスの役作りは圧巻です。
エイズの病状が進んでいくと、本当に病人かのようにげっそりと痩せこけていきます。仕事に精力を傾けていた頃とは打って変わっての成れの果てみたいな変貌ぶりには開いた口が塞がりません。

いまこの作品を観ると、まず同性愛者に対する偏った見方が気になってしまうのですが、当時は確かに本作のように同性愛者たちは生きづらい世の中だったんだと思います。
とはいえ同性愛とか関係なく、差別という目線で見ると世界もさほど大きくは変わっていないなという感想も抱きました。
BLMの事件はその最たる例だと思いますが、アカデミー賞でも注目された作品ということで、当時この作品が与えた影響というのは凄まじいものだったんじゃないかと感じます。

個人的にはベケットの弁護を引き受けるデンゼル・ワシントン演じるジョー・ミラーとの人間ドラマの部分が好きでした。
最初はミラーも同性愛者に偏見を持っており、しかもエイズが触っただけで感染る病気だと勘違いすらしていたほど。
だけど、人のいい彼は抵抗はありながらも、図書館で彼が受ける仕打ちを身近で見てしまったことで弁護を引き受けることにします。
実際のところ、彼自身の同性愛者に対する見方が大きく変わったとは思えません。それは今まで生きてきた人生とモノの見方がやはり関わってくるからです。
でも、とあるショップでの出来事が凄く心にきました。ややネタバレにはなるのですが、彼のベケットの弁護は報道されているから一般的にも知られているんですね。
とあるショップで1人の青年(大学生)に声をかけられます。同性愛者だという彼は、ベケットを弁護しているミラーも同様に同性愛者だと思って声をかけたわけですね。
もちろんミラーはゲイではないので拒否をするんですが、その後軽口ばかり叩く青年に向かって「お前みたいな奴がいるから…」と悔しそうに言葉を発するんですね。
これはミラーがベケットを同性愛者とかエイズ患者とかではなく、1人の人間として友人として認めているからこそ出てきた言葉なんだと思うんです。
このシーンはちょっとウルっときましたね。序盤のシーンでミラーが奥さんとの会話で明らかに同性愛者を差別する発言をしていたからこそ、彼の心の変わりように胸を鷲掴みされた気分です。

本作の公開が1993年(日本公開は1994年)。エイズは1980年代に初めて世に知られるようになった病気ですが、世界的に知名度が上がったのはフレディ・マーキュリーの死でしょう。
彼はエイズと診断されたのは1987年でしたが、1991年にこの世を去りました。
その後NBAスター選手のマジック・ジョンソンがHIV感染を理由に引退。
まさにその時流に乗った形での映画公開だったと言えるでしょう。
実際にこの流れを見ると、ハリウッドが手掛けるのは遅かったんじゃないかなとも思うところはあるのですが、影響力の大きいハリウッドが手掛けたことに意味があると思うんですね。

エイズを取り上げた映画として今後も語り継がれるべき良作です。
少なくとも同性愛者に対する偏見を持つような方は本作を観てモノの見方が変わるきっかけになるといいなと思いました。


細かいところでは、NBAの試合会場が映し出されるシーンがあるのですが、殿堂入りの名選手ドクターJことジュリアス・アービングが本人役で登場したのはアガりました。

※2020年自宅鑑賞321本目
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