近本光司

めしの近本光司のレビュー・感想・評価

めし(1951年製作の映画)
5.0
成瀬がすばらしいのはスクリーンに投影された人びとがいままさに真実の感情を生きているのだという感覚をもたらすからだ。同じ屋根の下に暮らす上原謙の女中に成り下がったかのような結婚生活に嫌気のさした原節子は、同窓会で「しあわせそうね」といわれて「しあわせそうかしら、そういうふうに見える?」とおどろきながらも平静をつとめて聞き返す。細部のひとつひとつが全体に奉仕している成瀬の巧さに脱帽。いつも泣いてしまうのは東京の実家にもどっていた原節子のもとを上原謙が訪ねてくる最後の場面。女性は妻としての宿命を受け入れるほかないと語るナレーションさえなければ、あの異様なまでの密度の最後の10分間は完璧!