三樹夫

ときめきに死すの三樹夫のレビュー・感想・評価

ときめきに死す(1984年製作の映画)
3.9
謎の男ジュリーと、歌舞伎町の医者の杉浦直樹と、コンパニオンの樋口可南子の3人の北海道での低体温な共同生活。一応ゴールは宗教家の暗殺に向けてとなるが、まずジュリーの世話係として歌舞伎町の医者の杉浦直樹が雇われ2人の共同生活が始まるがコミュニケーションが噛み合わなさ過ぎて笑ってしまう。そして後ほどコンパニオンの樋口可南子が合流してくるが相変わらず噛み合わない低体温な共同生活が続く。宗教家の暗殺に関しては最後にチョロッと出てくるだけで、しかもなんじゃこれみたいな予想だにしないとんでもない終わり方をし目を点にしてくる。この映画は共同生活パートが大部分を占めている。

この映画が目指しているのはクールネスだと思う。既存の邦画に対してなんか暑苦しくてダサいので、カウンターとして作られたような印象を持つ。海辺でのジュリーと杉浦直樹の会話で「日本ってあつくないですか?」がそれを表しているように思う。ジュリーは日本の精神性への言及だが、杉浦直樹は気温のことだと思っているという噛み合わなさは面白いが、「日本ってあつい」は暑苦しくてダサいから俺はクールネスに徹するという宣言のように思え、この映画に徹頭徹尾貫かれる低体温がそれを体現している。
キャラクターのプロフィールをコンピュータ画面で済ませるなど、邦画におけるコミュニケーションを解体して、クールネスで構築しようとしている。
ジュリーの役は何考えているか分からないながらもどこかポンコツで、監督はわざとカッコ悪くさせたと言っており、観ていて笑うか笑わないかのギリギリの線をついてくるコメディになっている。

この映画を観ていて想起するのはたけし映画の、特に『その男、凶暴につき』から『ソナチネ』を思い起こす。フィックスの引きの画で役者を撮るのとか後のたけしがよくやるやつだし、BGMが流れて3人が車で走っているショットなどもたけしっぽいが、カメラマンがかぶっているわけでもないのにこの類似性は何だろうと思う。2人とも暑苦しいのが嫌でクール志向という共通点はあり、おそらく他の邦画を観てこんなダサいことは俺はやらんという作り方をするのも共通するところであると思う。この映画の方が制作が早いのでたけしはこの映画を参考にしているのかなと思って調べてみたら、『気分はパラダイス』のゲストに森田芳光が出演している動画を見つけた。たけしはこの映画を観ており、ジュリーだと映像にマッチしすぎてPVみたいになるから、キャストはもっと顔まずいのの方が良かったんじゃないと言っていた。
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