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風の輝く朝にのpsychedeliaのネタバレレビュー・内容・結末

風の輝く朝に(1984年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

戦時中って時代を描いた戦後の日本映画にあんまり面白そうなものがないのは何故なんだろう。新東宝の一連の戦争映画シリーズとか,色々あるとは思うんだけどイマイチ積極的に観たいと思うものがない。
ところが戦後の動乱を描いた作品なら名作がいくつもある。『仁義なき戦い』なんてのはまさにその代表になるんじゃないか。
これは思うに戦前という時代に対して日本人が思考停止しているせいなんでしょうね。『風立ちぬ』を巡る批評を見るとそれが分かる。戦前という時代を惨めに痛々しく描かなければならないというのは,散々考えられた末での結論でなく,考えるのを止めた結果として出てきた惰性の感傷みたいなものなんだろうね。そう考えるとそこを全く違うアプローチで描こうとした宮崎駿という人の才人にも驚くし,『はだしのゲン』という漫画なんかもあれだけの反響を受ける理由がわかる(漫画の方が映画よりいくらも進歩的かもしれないですね,この点では)
そこへいくと自分たちの力で勝利を手にした国のしかも反抗の映画というのは,そのエネルギーはただものでない。本作での暴徒と暴徒の衝突からくる高揚感は『仁義なき戦い』をも超えている。活劇部分の監督をしたのがラム・チェンインだかサモハンだからしいけど,そのことも含めて,実に浮足立っていない。抗うというのがどういうことか,肌で感じて知っているのだろう。
戦争中にも恋はあるし楽しみはある。一部の人々(そして消えゆく人々)が日本の"戦争責任"というワードに敏感になるのは,後から見れば不幸でも,しかし彼らにとっては紛れもない青春のひと時だったからなのではないか。こういうことは,もうなかなか話してくれる人がいない。大き過ぎた不幸に曇ってしまったのか,または理解されないことが分かっているのか。戦後生まれのひとはそれを志ん生の『なめくじ艦隊』など数少ない自叙伝によって僅かにも偲ぶより他にない。
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    最近ジョン・カーペンターの映画ばかり見ている気がする。