MASAYA

2001年宇宙の旅 新世紀特別版のMASAYAのレビュー・感想・評価

4.3
【900本記念】

3度目の鑑賞
<スコア>2.0→3.0→4.3

ちなみに1回目→2回目→216分のDVD特典映像→原作→3回目という鑑賞道程です。

ここからレビューに入ります。
約Ⅰ50分ほどの宇宙旅行に行って参りました。
プライベートシートのど真ん中×爆音上映という考え得る限りでの最高の鑑賞法ということもあり、快適な宇宙の旅でした。

結論から言うと、三度目の正直となる今回は素晴らしいものとなりました。

この作品のレビューで
「1968年の作品とは思えない」
「音楽と映像の素晴らしさを堪能すべき作品」
などといった趣旨のレビューをよく見かける気がします。

そして自分も同じようにこの作品を楽しもうとして失敗しました。
抽象的且つ形而上的な作品と勝手に決めつけていたようです。

しかし、原作を読んで考えが変わりました。何て面白いのだと。
それだけでなく、3回目となる今回は本作について新たな印象を持つことができました。それは『2001年宇宙の旅』は一種のオペラなのではないかということです。
自分はまったく詳しくないですが、オペラは鑑賞に際して、舞台の上で繰り広げられる音楽、歌を聴き、そしてドラマを「感じる」ためには字幕の電光掲示板にあまり目を向けないことが大事だそうです。
たしかにストーリーを知るためにオペラを観に行くわけではないですよね。ですから楽しむポイントとして事前にあらすじを予習しておくことが求められるらしいです。

本作も同じではないでしょうか?
たしかに映像も音楽も素晴らしいですが、それを真の意味で堪能するには事前に描かれているストーリーを予習しなければならないと言わざるを得ません。
なぜなら原作を読まないと分からないところが多すぎるからです。「3回観ないと意図が理解できない」などと言われていますが、それは誤解です。
原作を読んでから鑑賞すれば初見でも何の苦もなく理解できると断言できます。

たしかに、小説を読まないと理解できない映画を後ろめたさなしに称賛することができるのかと問われれば、正直難しいですが、それでも元々のストーリーを頭に入れた今、この作品を心から面白いと思った事実は否定できません。

とりわけ、説明や台詞がとことん捨象されている一方で、抽象されたエッセンスというのはカタルシスの極地だと感じました。

ここからは3つのパートに分かれる本作のそれぞれについてのあらすじと魅力について語っていきたいと思います。


①「人類の夜明け」
遠い昔、ヒトザルが他の獣と変わらない生活を送っていた。僅かな食べ物と水を求め、争い、飢え、獲物として追われる恐怖に怯えながら暮らしていた。

そんなアフリカ大陸に突如姿を現した厚板状の闖入物。そしてヒトザルのなかの大柄な1匹〈月を見るもの〉は直立石モノリスから知識を授かり、最終的には文明をもたらす。

なぜ、豹が一瞬登場するのか、なぜヒトザルはモノリスの回りで踊っているのか、よく分からない一つ一つの行動や演出にしっかりストーリーが詰め込まれています。
進化を操り、超人類と化す道までを用意する物語として最高の出だしではないでしょうか。とりわけヒトザルが骨を宙に投げ、それが核ミサイル衛星に変わるシーンは絶品です。どうだ!人類の"武器"はここまで進化したんだぞ!という進歩を集約したかのようなメッセージをあのようなメタ的な形でぶつけてくるとは、、脱帽です。

そして月面生活が当たり前となった時代、宇宙評議会のフロイド博士は月面のティコで発掘されたモノリス(TMA・1)を極秘調査するため、クラビウス基地に向かう。


②「木星使節」
18か月後、宇宙船ディスカバリー号は木星探査に向け飛行していたが、船長のボーマンと乗組員のフランクは"ある出来事"をきっかけに完全無欠のはずの人工知能HAL(ハル)9000型コンピュータに疑念を抱くが...

この章が一番見てて解りやすいストーリーとなっていると思います。台詞もしっかり登場しますし、息を呑まれるような展開となっています。

まるで神経症のようなHALによる自己防衛と任務遂行のために出た暴挙。表情などないはずの赤いレンズから感情が伝わってくるから不気味です。

これはおそらく近代テクノロジーに依存する未来への警鐘だと捉えることができるでしょう。たしかにその点に関しては先見の明があったと言えるはずです。

そしてこの章を引き立てているのが絶妙な映像美です。
不純物が一切ない真空の宇宙を浮游しているかのように静かにゆっくり飛ぶ宇宙ステーションは目を釘付けにしますし、科学的理論に則った超現実的な無重力空間を表現したあの大観覧車は視角効果の最高峰と言っても過言ではないはずです。

あとは感情を交えずに淡々と仕事をこなすようにHALを殺すシーンを筆頭に、息づかいだけがその空間の唯一の音という演出もすてきです。


③「木星 そして無限の宇宙の彼方へ」
たとえ一人となってもボーマンは木星探査を続行。そして惑星の衛星軌道上で巨大なモノリスと遭遇。スターゲートを抜けて辿り着いた先は、、、

この章は完全に謎過ぎて小説を読んでなければ置いてきぼりをくらうでしょう。

そもそもスターゲートって何なの?っていう次元だと思います。何をしているのかさっぱり理解できないはずです。
あの激しい光が延々と映し出されるシーンこそがスターゲートを通過している場面です。ワープしてやっとのこと行き着いた部屋は人間を飼い慣らす空間であり、本や食べ物はその機能を果たしていないんです。つまりすべては作り物のフェイク。見せかけだけの空間となっています。

そしてオープニングでも見た天体直列。
ボーマンは人類を超越した存在、スターチャイルドへと姿を変えるのです。それこそが無敵の肉体であり、彼が描き出すイメージでもあります。
手にした〈永遠〉と超人的力、「さて、何をしようか。」と地球を俯瞰するラストのシーンは音楽も相俟って圧巻です。


ストーリーと魅力に関してはこんなところですかね。

「神の概念を表象しており、解釈は観るものに委ねられている」そんなものは詭弁です。

何度も言いますが、原作を読んで欲しいです。謎めいたところが良いだなんて自分は少しも思いません。
小説を読むと、そこには曖昧さの欠片もなく、最終的には見事なまでの完成度に感銘を受けることでしょう。

『ツァラトゥストラはかく語りき』が"なぜ"この場面で流れるのかと紐ほどけた瞬間、魂が震えました。

2016/4/6 恵比寿ガーデンシネマ 爆音映画祭

2018/10/26 TOHOシネマズ新宿 IMAX
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