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『悲しい奴』に投稿された感想・評価

ユーロ・トラッシュ映画の雄、ジェス・フランコ監督が初期に手掛けたゴシック猟奇ホラーの2本目。原作・脚本もフランコ監督。英題「The Sadistic Baron Von Klaus(サディスティック男爵フォン・クラウス)」。邦題は1964年日本公開時に大蔵映画が命名。「サディスティック」を「Sad(悲しい)なさま」と誤訳したものと思われる。

ドイツの田舎村で若い女性の連続猟奇殺人が発生。村には17世紀に女性たちを惨殺したクラウス男爵の伝説があり、その子孫マックス・クラウス(ハワード・ヴァーノン)に疑いの目が向けられる。その頃、人里離れた湿地帯にあるクラウス家の屋敷ではマックスの姉エリサが死に瀕しており、危篤の報を受けたエリサの息子ルードウィヒ(ヒューゴ・ブランコ)が婚約者を連れて向かっていた。死の間際、エリサは息子に地下牢の鍵を渡し祖先の忌まわしい過去を言い残す。地下牢はかつてクラウス男爵が女性たちを拷問した秘密部屋だった。。。

地下牢で全裸の女性が鞭で打たれ鎖で吊るしあげられる。1962年当時としては相当にショッキングな表現だったろうし、後のフランコ監督の猟奇的な作風が既に伺える。

プロットは伝奇ミステリー仕立てで終盤まで真犯人は明かされない。犯人候補は限られているのだがそれぞれにアリバイがあり動機も含めて最後まで真相はわからない。中盤に派手な動きがないため少々単調になるが、忌まわしい伝説と真犯人への興味で退屈はしなかった。ただ、解き明かされた真相が合理的ではなく、血の因果があるにしろやや無理が感じられるたのが残念なところ。

サビれた町の夜道や森林の中の湿地帯など田舎ホラーのムードは充分。映像は全体的に端正に撮られ特に森のシーンは素晴らしい。ラストの落としどころも、寂漠とした風景と相まってなかなか印象的だった。

フランコ監督ならではのジャズ劇伴も独特な雰囲気を醸し出している。同時代のハリウッド・ホラーとはとは違う、どこかオシャレ?な感じがするのはヨーロッパのホラーに共通しているように思われる。

黒の皮手袋にナイフという後のイタリア・ジャッロ映画のアイコンが既に用いられている。ジャッロの先駆とされるバーヴァ監督「知りすぎた少女」(1963)の前年の作品(スペイン×フランス製作)であることは注目しておきたい。海外評に、ジャッロを準備したとされるドイツのクリミ映画と同時期の製作であるとの指摘があった。

マックス役のハワード・ヴァーノンは監督の前作「美女の皮をはぐ男」(1962)のオルロフ博士役で主演、息子ルードウィヒ役のヒューゴ・ブランコは次作「ジキル博士と殺人ロボット(1964)で主演を務める。