とーるさんし

ファザーファッカーのとーるさんしのレビュー・感想・評価

ファザーファッカー(1995年製作の映画)
3.9
良い映画だ。中学生が義父に性的関係を強いられる内容と聞けば暗い作品を想像してしまうが、実際に観てみると全く正反対の瑞々しい印象を持つ。

芦澤明子撮影によって切り取られた長崎の初夏の鮮やかな空気、更に映画初出演初主演の中村麻美(生駒里奈と若月佑美を合わせたような感じで好き)から湧き立つ清新な抒情が全編素晴らしい。

煙突が男根の象徴であったり、分かりやすく図式的なアイコンが複数出てくるのだが、画面上では図式性から積極的にはみ出ようとする反転力が働いている。幻想へと逃げ込む中村麻美の場面にしても、図式よりまず中村麻美の爽やかな生命力が画面に匂い立つ。桃井かおりの事態を見て見ぬふりをする母親にしても、憎たらしさを超えた実存的リアルをキャラクターに付与し得ている。或いはロケーション選定の巧みさと、それを補完する芦澤明子によるロングショットの触感的な生々しさ。

脚本上の図式性と戯れ勝利を収めている画面上の清々しさの魅惑。こうしたアンビバレンツな感情に浸り堪能できる点が本作の魅力であり、映画そのものの魅力でもあると思うのだ。荒戸源次郎は「赤目四十八瀧心中未遂」があまりにもつまらなくて敬遠していたが、この第一作目は見違えるように良い。
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