「ピアニスト」
冒頭、ウィーンの名門音楽院。
扉を開ける女、厳格な母との対立。
親子が泣き、抱擁。レッスン、ピアノと手の頭上描写。
過干渉、欲求不満、階段を駆け上る美しい青年。
性的趣味、秘密。今、男女の経験が始まる…
本作はM. ハネケがカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞し、
主演のI.ユペール、B. マジメルが主演男優、女優賞を見事に手にした2001年の傑作が遂にBD化され、再鑑賞したが素晴らしい。
いや〜ユペール演じるエリカが精子付きティッシュを嗅ぐシーンと風呂場で陰部を剃刀で切り出血する場面は印象的だ。
改めて観て思ったがこの映画ってトイレが名シーンで手淫から陰茎を前戯するギコチナイ異常な雰囲気が凄い…。
結局、自分で手こきする結末なんて笑える。
にしてもマジメルって美青年だよな…G.カネと一緒に好きだわビジュアル。
ハネケって男女の後頭部の脇から俳優を撮影するの好きだなぁ。
それと敢えて雑音を入れてリアリズムを追及してる点は良い。
音楽院の中では生徒たちの喋り声や物を動かす音、室内ではテレビの音が終始かすかに聞こえる空間を作り上げている。
終盤の性暴力シークエンスは壮絶…
ホッケーの物置での性行為からの嘔吐、氷の上を走り去る女の後姿、アザを残し会場に来るエリカの衝撃的な帰結、余韻を残す固定ショットの幕引き…凄い。
それにしてもシューベルトをマジメルが完璧に弾いてるのは凄え…
かなり特訓したんだろう。ハネケ映画と言えば後味の悪い帰結だが、本作も何とも嫌な終わり方だ…
そりゃファニゲやベニビの様な圧倒的な胸糞悪さは無い物の、中盤から無表情のユペールが泣き出し、
感情的になる場面や全体的に冷たい演出が見る者を複雑な心理にさせる。
それは親子が冒頭で喧嘩し、断る毎に平手打ちや暴言を吐く母親の気狂いぶりも普通の状態では無い…
更に悪化した状態が娘のエリカで性的妄想を抱きながら、中年になり、挙げ句の果てに母に接吻し、性を求めようとするベッドシーンは驚くばかりだ。
一種の虐待に近い…それは母の洗脳による物だと我々は垣間見る。
にしてもピアニストなんてタイトルをよく付けたもんだ。
中身はアブノーマルな作風なのに…風変わりな女と真面な好青年の力関係の図式を見せつけられた一本だ。
物語はピアノ教員と院に通う青年との歪んだ愛と母娘の関係性を炙り出すマゾヒズム映画で、不思議な力を持つ…。