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シンドラーのリストのhsのネタバレレビュー・内容・結末

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画の演出方法を論じる時、この映画がモノクロ映画だという事は避けて通れない。この映画は本編の大部分がモノクロで構成されている。カラーの映像が少し流れた後、すぐにモノクロで話が始まる。このようにすることで時制が最初のシーンより前であることを視聴者に理解させ、この映画がホロコースト被害者たちの回顧録のようなものであることを演出している。他にも当時の映像で残っているものはほとんどが白黒の映像であるため、それに寄せたかったという意図もあったのかもしれない。
他にも映画としての強度が比較的強い作品のためカラーにすると映像が強すぎて脱落する者が出てくるかもしれないため、色んな人にこの映画を観て欲しいという思いがスピルバーグにモノクロ映画という演出をさせたのかもしれない。
 個人的に好きだった演出は、シンドラーが高い場所から大勢のユダヤ人を見下ろすシーンで、その中で赤い色を身にまとった1人の女の子が目立つ。モノクロのため、赤い色が際立って観客の注目を浴びやすい。シンドラーがこの女の子に焦点を当てている事が分かる。このシーンでは、音楽が使用され、シンドラーの内面を表現している。また、この瞬間が彼の人生において転機であることを示唆している。この女の子がシンドラーにヒューマニズム的な価値観を芽生えさせるきっかけとなる。しかし、後にこの赤い女の子は亡くなり、その死体が運ばれてくる。シンドラーは彼女の死を目撃し、驚きと悲しみの表情を浮かべる。この出来事がシンドラーのヒューマニズムへの転向に大きな影響を与える。一人の子供の死を通じて、観客にホロコーストの凄惨さを訴えかけている。
 アウシュビッツの表現方法についても論じていきたい。アウシュビッツのシーンでは死を効果的に描写しようと試みており、その演出は強烈な死のリアリティを醸し出すことに成功している。
シンドラーの女性従業員たちがブワシュフ収容所でアウシュビッツについて話す場面がある。一人の女性が「シャワー室に案内されたら、最終的にはそこに閉じ込められて毒ガスを浴びせられ、死んでしまう」と話す。しかし、他の女性たちは大量虐殺の実態を信じない。彼女たちは自分たちが労働力として使われると信じている。これが後に大掛かりなフリとして死の演出に貢献する。
その後、女性たちが手続き上のミスでシンドラーの生まれ故郷に行くことなくアウシュビッツに送られる場面が描かれる。アウシュビッツの描写は圧倒的で、この場所が地獄であることを一瞬で理解できる。このシーンだけでもこの映画を観る価値があるのではないかと思う。女性たちはブワシュフ収容所での話を元に、徐々に毒ガスの話が真実かもしれないと思うようになり、死の現実を鮮明に感じていく。彼女たちが髪を刈られ、シャワー室に案内される。その後、扉が閉められ彼女たちは怯え慌てふためく。これによって観客は彼女たちの立場に感情移入し、自分たちも同じ運命に瀕しているように感じる。シャワー室が暗転する瞬間に女性たちの絶叫が非常にリアルに表現され、彼女たちが毒ガスで死ぬことを観客に予期させる。最終的には毒ガスではなく水が出てきて女性たちは安堵するのだが、私はこの水が出て安堵するというシーンに強い怒りを覚える。ホロコーストの凄惨さを伝えたいのなら彼女たちはここで殺すべきである。このシーンのせいで作品全体の重厚感が薄れてしまったのではないかと感じている。スピルバーグとしては劇中に登場するブワシュフ収容所の生存者が試写に来ることが分かっていたので、事実をありのままに再現することが出来ない事情もあったのは理解できるが個人的にはその表現から逃げて欲しくはなかった。
「シンドラーのリスト」について、先ほどの事もあり私の評価はあまり高くないし、好きとは言えない。後に制作されたホロコーストを描いた作品と比べると、物足りないと感じる人々の意見も理解できる。ただし、当時においてこのような規模でホロコーストに焦点を当てた劇映画は他に存在しなかったことを考慮すると、この映画は特別な存在である。そのため、この映画を好みではないからと言って否定することは難しい。かなり思い切ったことをやったという意味では、『シンドラーのリスト』という映画が制作されたからこそ、この映画に対する批判的な意味も込めて続く映画が制作されたということを考えることもできる。その点では意義深い映画ではあったのだと思う。
この映画がヒットし、評価されたことで初めて多くの人がホロコーストの実情を知るきっかけとなり、その感覚を掴むことができたのではないか。多くの人々に与えたインパクトを考えると、この映画を制作する意義があったのではないか。この映画はホロコーストに関心を持つ入り口として大きな役割を果たしているという点で評価すべきであると私は思う。
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