みおこし

私の中のもうひとりの私のみおこしのレビュー・感想・評価

私の中のもうひとりの私(1989年製作の映画)
4.0
哲学界で輝かしい実績を残した50歳の大学教授マリオンは、再婚した夫ケンと義理の娘とも幸せに暮らし、まさに順風満帆な人生を送っていた。ある日、アパートの隣室から精神医とその患者ホープのやり取りが聴こえてきた。ホープの相談がかつて自分が抱えていた苦悩と重なったことから、いつしかマリオンは”自分のもう一つの自己”を見つめ直すようになる…。

未見の作品が減ってきて、ウディ・アレン作品コンプが見えてきましたが、今のところ『アリス』『カイロの紫のバラ』そして本作が個人的ベスト3。一般的にはあまり知名度の高い作品ではないようですが、それくらい本作は素晴らしい作品でした。
ジーナ・ローランズ扮する、自信を持って人生を切り拓いてきた素敵な女性マリオン。誰もが彼女の成功を羨み教え子や友人からも一目を置かれる存在ながら、実は人には言えない多くの苦労を重ねてここまでやってきました。思いがけず耳にした若い女性の相談を契機に、50年の中で経験した苦い思い出を回顧し、さらには自分の”欠点”も痛感させられることになります。
ウディ・アレン作品って、いつもぶっ飛んだ人が出てくるので共感はできないことが多いのですが、本作のマリオンに対してはこれまで努力してきたところや自分の過去の汚点にもしっかり目を向けようとするところにすごく好感が持てました。
誰もが”よそ行きの自分”と”本当の自分”を抱えていて、時に前者に集中して後者と向き合うことをやめてしまう瞬間がありますよね。私自身この2つの自分をかなり分けている自覚があるので、余計にこのテーマに共感できたし、マリオンが劇中で耳の痛いことを他の人に言われるたびに一緒にグサリ(笑)。でも、いくつになっても自分の人生に満足してはいけないし、何度でもやり直せるという希望も見いだせるストーリーにすごく奮い立たされました。
コロナ禍の今だからこそ、ちょっと自分探しをしている人にオススメ。

主演のジーナ・ローランズも素晴らしかったけれど、本作の個人的MVPはジーン・ハックマン。かつてマリオンに想いを寄せていたラリー役をいつものハードボイルドなイメージとは一変した抑えた演技で好演。出番自体は少なめではあるのですが、本作におけるキーパーソンでもあるのですごく印象に残りました。特にあのラストシーン、セリフはないのに表情ひとつでラリーの感情を体現してしまうところ、俳優さんって素晴らしいなと改めて痛感したのでした…!
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