垂直落下式サミング

キングコングの逆襲の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

キングコングの逆襲(1967年製作の映画)
5.0
「ニューヨークに連れてきたって、持て余しますよ!」

この台詞が、最高にジャパニーズ円谷。むやみやたらに自然や野生を淘汰できると思うなと、西洋文明が掲げる非文明的なるものを軽んじたヒューマニズムへの痛烈なアンサーとなっている。
1933年版では、キングコングを見世物として連れてきた挙げ句戦闘機の機関銃で撃ち殺していたが、今回の連れてくる理由は働かせるためだってから、余計にたちが悪い。放射能汚染された場所で、肉体労働をさせることが目的だなんて、見世物小屋よりも非人道的だと思う。
オリジナルにあった欺瞞への意趣返しになっているストーリーの秀逸さもさることながら、素晴らしいのはメカニコングのデザイン。真っ正面から類人猿型ロボットゴリラ。この秀逸なビジュアルにやられてしまった。
なにより、あんだけメタリック逆三角形のくせに、救いようのないザコなのが可愛らしい。スーツアクターがロボットであることを意識して演じているから、なんか全ての挙動にパントマイムみたいなぎこちなさがあるし、東京タワーから落下してガンガラガッシャンと四散してしまう無情な最期なんか見せられた日には、どんまい大丈夫だよっと肩に手をおいてやりたくなる。
そして、なんとイケメン恐竜ゴロザウルス初登場回でもあった。これが初出かあ!僕は子供向けの怪獣大全集で紹介されているタイトルから知識を得ていたので、タイトルやポスターアートに出てこない奴らは、出演作の認識が曖昧。公開処刑中のキングギドラを後ろから奇襲する卑怯ものってイメージでした。御無礼!
しかし、こんなに武闘派でしたか。『怪獣総攻撃』でキングギドラの脊椎を破壊し選手生命を絶った大技を、本作でも披露。尻尾をバネにして両足で蹴りを入れるカンガルーみたいな跳び蹴り。だけど、コイツ平成以降の作品に登場してないからなぁ…。俊敏さが売りのキック・ザ・カンガルー!ライツカメラアクションで噛みつき、でも次回からはもう用なし。sayonara sayonara…
他はカッコいいのに、主人公とも言えるキングコングは、なんであんなにくそダサいマヌケ面なのか。VSゴジラの時と比べて、顔と目玉が大きくなって表情がついたぶん、怪獣に必要な人智を越えた生き物っぽさが消え失せて、しっかりと猿科の動物にみえる。いかり肩の寸胴体型で直立しすぎも見映えがよくない。
しかしながら、なんだかぶっきらぼうな表情がついたことで前述した奴隷労働の悲哀が増しており、人間の思惑に振り回されて理不尽に使われつつも、最後にはちゃんとしっぺ返しを食らわせるところが痛快。意地でも人間の思惑どおりに動かない後半にかけては、やったれお猿!と応援したくなってくる。
序盤でオンナにフラれるエロ猿の眼差しにも注目。名残惜しそうに潜水艇を見つめる眼差しには、明らかに高等な知性(ドスケベ)を感じた。
円谷特撮作品は、どんな作品でも観終わってみれば、なんだかんだで満足度が高い純正エンターテイメント。ハリウッド正統リメイク版の『キングコング髑髏島の巨神』は、オリジナルよりもこちらにルーツがありそう。